EXHIBITIONS

石川直樹「MOMENTUM」

石川直樹 MOMENTUM 2021/2022 © Naoki Ishikawa Courtesy of the artist and Taka Ishii Gallery

石川直樹 MOMENTUM 2021/2022 © Naoki Ishikawa Courtesy of the artist and Taka Ishii Gallery

 写真家・石川直樹の個展「MOMENTUM」がタカ・イシイギャラリーで開催されている。本展はamanaTIGPでの「まれびと Wearing a spirit like a cloak」展(~3月19日)との同時期開催。

 石川は1977年東京都生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。大学在学中から本格的な登山活動と写真制作を始める。北極や南極といった極地を踏破し、23歳の若さで七大陸最高峰の登頂最年少記録を更新。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。

 世界各地での旅の軌跡を写真集に収め、2008年『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞。11年『CORONA』(青土社)で土門拳賞を受賞。20年『EVEREST』(CCCメディアハウス)、『まれびと』(小学館)により日本写真協会賞作家賞を受賞した。最新作に『STREETS ARE MINE』(大和書房)、『奥能登半島』(青土社)などがある。

 本展では、飛び込み競技に取り組む青少年たちを撮影した新作シリーズ「MOMENTUM」より11点を展示する。

 2021年の夏、石川は香川県高松市に位置する香川県立総合水泳プールを訪れ、屋外に設営された飛び込み台で練習を行う地元の子供たちの姿を撮影した。徐々に日差しが強まる早朝から日中をはじめとして、空の様相が次第に移り変わる夕刻、そして陽が失われる夜と、刻一刻と変化していく光のもと、極地でも使用してきた中判カメラによる撮影を重ねた。多種多様な光線がカラーのネガフィルムへと照り返しながら画面全体を満たし、そこに写し取られる真夏の大空や広大なプールの水面は、豊かな色彩に満ちあふれている。

 あらゆるスポーツ競技のなかでも、開始から終了までの時間がもっとも短いとされる飛び込み競技において、選手たちは身体の回転や捻りを組み合わせた演技の美しさと水飛沫を最小限に留める着水を競う。わずか2秒ほどで結果が決まるこの種目に取り組む被写体を目の前にして、石川は同じくシャッターを切る一瞬で画面が定まる写真というメディウムを用いて対峙した。そこでは飛び込んでは再び高台へと登り、また飛び込む練習を繰り返す若者たちと、各々の動きに合わせて何度も撮影を行う写真家が一体化する空間が生み出され、着水の音とシャッターの作動音が交互に鳴り響く。

 シリーズおよび本展のタイトルにある「momentum」は、惰性や勢い(=物理的な動き)を示すのに対して、「moment」は瞬間(=時間的な動き)を表している。両者はともに、動きを意味するラテン語「movimentum」に由来し、同一の語源を持つ二重語とみなされている。2秒という短い時間に自らの身体の運動を凝縮させる飛び込み競技の青少年たちと共鳴するように、石川はそれぞれの動作を様々なシャッタースピードでとらえた。露出時間の差異は石川の写真群に異なる表情を生み出し、被写体の僅かな動きをブレとしてとらえるいっぽうで、肉眼ではとらえきれない動きをまるで静止しているかのように固定化した。「momentum」と「moment」が共通の語源を持つように、石川の写真は大小の「瞬間」を切り取り視覚化することによって多彩な「勢い」を固定化するメディウムの本質に差し迫る。