EXHIBITIONS

伊藤公象「ソラリスの海《回帰記憶》のなかで」

2021.09.18 - 12.26

伊藤公象 回帰記憶(recursive memories) 2021 Photo by Yuko Horie

 ARTS ISOZAKIは、伊藤公象の個展「ソラリスの海《回帰記憶》のなかで」を開催している。12月26日まで。

 伊藤は1932年に金沢の彫金家の長男として生まれ、10代の頃に陶芸家のもとに弟子入り。しかしその後は伝統の世界から離れ、美術という概念を問い直すような新しい表現を追求してきた。ある時は土を凍らせ、ある時は乾燥による土の収縮や亀裂を創作に採り込むなど、自然現象を活かした独自の造形は早くから注目を集め、78年にはインド・トリエンナーレ、続いて84年にはヴェネチア・ビエンナーレに日本代表として参加。その活躍の場は国内外に広がり、土の造形のパイオニアとして高い評価を得ている。

 笠間市の「伊藤アトリエ」を拠点として茨城県から世界に発信し、89歳となったいまも旺盛な創作活動を行う伊藤。作家の半世紀にわたる歩みをたどる本展では、伊藤の半世紀の記憶が作品として回帰しあらわれた新作を展示している。

 本展タイトルの「ソラリスの海」は、著名SF小説から借用したもの。海全体がひとつの生命体になっている惑星で、宇宙飛行士の記憶が海によって形象化されるという設定の物語だ。

 今回展示される新作は、シュレッダーによって「消された記憶」が泥漿(でいしょう)と混ぜ合わされ、焼成され、まるで沸き立つ海のような形象が出現する。本展に寄せて「新作への批評はまな板の上にある」と述べた伊藤だが、それを見る私たちの記憶がまな板の上にある、という感覚になることだろう。

「アトリエの1Fは造形制作の現場、住まい2階の小部屋は制作の構想を思索したり、パソコン、コピー機、書架や資料、試作品などが約半世紀の間にぎっしりと溜まっている。散らかっているようだが、どれも捨てがたいのだ。妙なもので、気に入らない試作品にも後になって『おやっ』と思う発見がある。昭和一桁の身は紙になぜだか執着があって、さまざまな情報をパソコン内だけでなく、プリントして読む癖がある。このA4プリントがバカにならないくらいファイルされ、書架やダンボール箱に詰め込まれている。近く卒寿を迎えることから、この際プリント資料は処理することにして、家庭用のシュレッダーを購入した。静かな擬音と震動、刻まれて行く記録紙片は『消された記憶』。しかし裁断された紙片の山は美しい。こちらも美しい陶土の泥漿に混ぜ合わせる作業を繰り返す。大きな器で一度に混ぜることは出来ない。ひたすら小さな容器で泥漿と紙片を無心になって掻き混ぜながら新作の準備を進める。新作への批評はまな板の上にある(本展に寄せて、伊藤公象)」。