EXHIBITIONS

若手アーティスト支援プログラムVoyage2022

鈴木史 個展「Miss. Arkadin」/工藤玲那 個展「アンパブリック マザー アンド チャイルド」

2022.07.16 - 09.04

工藤玲那 無題

鈴木史 未来への抗議 ©︎ 2021 FUMI SUZUKI

 塩竈市杉村惇美術館で開催される「若手アーティスト支援プログラムVoyage」は、これからの活躍が期待されるアーティストたちの可能性に光を当て、新たなステップを提供することを目的としたプログラム。8回目を数える今回は、公募により選考された映画監督・美術家・文筆家の鈴木史と、ビジュアルアーティストの工藤玲那の2名を紹介する。

 鈴木は1988年生まれ、塩竈市出身。映画美学校フィクションコース修了後、映画美術スタッフとしての活動を経て、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域を修了した。大学在学中から自主映画の制作を始め、現在は映画と映像インスタレーションの制作を行う。

 自身の経験に深く根ざしたジェンダーへの意識に基づき、社会的に多くの人々とは異なるとされる自身の存在への理解を求める鈴木の作品は、ジェンダーにまつわる思考を喚起させる。本展では「見られること」をコンセプトに「Miss.Arkadin(ミス・アーカディン)」という名の女性を仮に自身が演じ、パーソナルな事柄も含まれる、身の回りの人物との会話風景をもとに作品化。自身のルーツをたどり過去を見つめ、自身が何者であるかを問い直す。

 工藤は1994年生まれ、同じく宮城県出身。絵画や陶芸をはじめ、あらゆる表現媒体を介した作品を制作し、各地に滞在しながら活動している。各地での出会いや個人的な記憶、経験などをもとに柔軟な好奇心から生まれる作品は、自己と他者、ものごとの隙間に生じる言いようのない混沌を探り、固定化された意識や概念を根底から解きほぐそうとする試みといえる。本展では塩竈に伝わる「母子石(*)」を題材に、自身の母との共同制作を行う。

 工藤の母は中国出身者であり、現在は移動販売を行うなど、料理を生業としてきた。日本人にも馴染む味へと変化していった母の料理には、文化の違いを超えた味のグラデーションがあったという。工藤がもっとも母のルーツを感じる「料理」を題材とした共同制作を通じて、家族、ルーツとは何か、普遍的なテーマについて改めて問う。

 自身のアイデンティティと対峙し、横断的な手法で自己を具現化する両作家それぞれの表現と出会う本展を、本質的な多様性について考えるきっかけとしたい。

*──「母子石(ははこいし)」の物語では、多賀城の政庁創建時、人柱を立てて永久の護りにするため、とある家族の父が人柱に選ばれた。母と娘は傍にあった石の上でいつまでも悲しみに暮れ、2人の立っていたその石には足跡が残された。この物語は「母子石」の物語としていまに伝わり、塩竈と多賀城を結ぶ道でこの石を見ることができる。