EXHIBITIONS
至るところで 心を集めよ 立っていよ
ジェームス・リー・バイヤース、潘逸舟、佐々木健、碓井ゆい、アピチャッポン・ウィーラセタクン
SCAI PIRAMIDEは、ゲストキュレーターに兼平彦太郎を迎えたグループ展「至るところで 心を集めよ 立っていよ」を開催。本展はYutaka Kikutake Gallery(~8月6日)との共同開催となる。
本展のタイトルは、ドイツ系ユダヤ人の詩人パウル・ツェランの詩「刻々」の一節「至るところで 心を集めよ 立っていよ」からとったもの。「アイデンティティの葛藤と獲得」「不在の存在」「ここではないどこかを想像する」など、ここ数年、パンデミックや紛争が人々の営みや交流に困難を強いるなかで、改めて私たち一人ひとりの立っているところを確認し、他者を想像することで知り得る価値観やそこから導かれる社会の多様な在り方、ひいては人間そのものの在り方について省察を試みようとするものだ。
SCAI PIRAMIDEでは、ジェームス・リー・バイヤース、潘逸舟、佐々木健、碓井ゆい、アピチャッポン・ウィーラセタクンのアーティスト5名が参加する。
9歳の時に上海から青森県弘前市へ移住をした潘逸舟の作品制作は、自身の社会的アイデンティティへの問いかけから始まる。作品のなかで潘は衣服を脱いでいくことで、自身を社会的に規定された立場から解放し、そこに改めて自身の身体を重ねることで「私とは誰か」を再考している。今回は、いまも上海に住む祖母の営みから、それにまつわる素材を用いて、中国に暮らす女性たちの社会的・歴史的な境遇や文化、労働に言及する小作品も新たに発表する予定だ(『Thank You Memory ‒醸造から創造へ-』弘前れんが倉庫美術館ブックレットより一部改稿)。
佐々木健は、2021年の夏、かつて祖父母が住んでいた家を「五味家(The Kamakura Project)」として公開し、自身の個展「合流点」を開催した。この展覧会は、知的障害を伴う自閉症の兄を持つ佐々木が、相模原障害者施設殺傷事件に衝撃を受け、家屋と庭と絵画によって、家族の歴史と自身のおかれた立場や境遇を告白し、また「芸術」や「福祉」が隠匿する社会構造の問題にリーチし、多くの反響を呼んだ。本展では、昨年の「合流点」でも発表された絵画などを展示する。
碓井ゆいは、女性や労働といった視点から歴史的かつ社会的批評性を持った作品を発表している作家。香水ボトルを模した《空(から)の名前》で小さなガラスボトルに貼られた名前は、太平洋戦争中に旧日本軍の「従軍慰安婦」とされた女性たちが慰安所で名付けられた源氏名だという。本展において碓井は、歴史的な事実から、女性たちや私たちの社会のなかにいまなお続いている痛みについて想いをめぐらせる。
アピチャッポン・ウィーラセタクンは、出身地・タイの言い伝え「名前を変えることで幸せになれる」にならって、新たに「水(Nach)」という名前を手にいれた女性のもとを訪れ撮影した映像作品《Cactus River》を出品。ウィーラセタクンが「日記」と呼ぶこの短い映像作品は、作家自身の作品にもたびたび出演している女性がパートナーと暮らすメコン川近くの家で撮影され、一概に善悪や正否を言い切ることのできない伝統や伝承に寄り添いながら、自身の幸福や真理の探究を行う女性の物語でもある。そして登場するふたつの流れ「メコン川」と「水(Nach)」は、それぞれの歴史や人生とも交差し、いずれ消えゆく流れの先に待ち受けるそう遠くはない未来の記憶を想起させる。
ジェームス・リー・バイヤースは、独自の神秘思想や瞑想体験から、自身の理想とする様式美を求め続けたコンセプチュアルな作家だ。バイヤースの彫刻やパフォーマンスは、時に装飾的・魔術的でありながら、一貫した美学のもと形而的な精神性をたたえている。
本展では大理石の彫刻を木製のキャビネットに収めた「The Figure of Question(問われる形状)」シリーズより《The Star Book》を展示。バイヤースは作品でたびたび星形をモチーフとして用いているが、これは人間のかたちの象徴でもある。今回は特別にバイヤースの《The Star Book》を、潘逸舟が星を描いてくパフォーマンス映像《My Star》と並べて展示し、人間が追い求める理想とは何か、改めて思いをめぐらす。
いっぽうYutaka Kikutake Galleryの展示では、関川航平、中島吏英、古橋まどかの3名が参加。会期中、出品アーティストによるパフォーマンスやワークショップなどの開催も予定している。
本展のタイトルは、ドイツ系ユダヤ人の詩人パウル・ツェランの詩「刻々」の一節「至るところで 心を集めよ 立っていよ」からとったもの。「アイデンティティの葛藤と獲得」「不在の存在」「ここではないどこかを想像する」など、ここ数年、パンデミックや紛争が人々の営みや交流に困難を強いるなかで、改めて私たち一人ひとりの立っているところを確認し、他者を想像することで知り得る価値観やそこから導かれる社会の多様な在り方、ひいては人間そのものの在り方について省察を試みようとするものだ。
SCAI PIRAMIDEでは、ジェームス・リー・バイヤース、潘逸舟、佐々木健、碓井ゆい、アピチャッポン・ウィーラセタクンのアーティスト5名が参加する。
9歳の時に上海から青森県弘前市へ移住をした潘逸舟の作品制作は、自身の社会的アイデンティティへの問いかけから始まる。作品のなかで潘は衣服を脱いでいくことで、自身を社会的に規定された立場から解放し、そこに改めて自身の身体を重ねることで「私とは誰か」を再考している。今回は、いまも上海に住む祖母の営みから、それにまつわる素材を用いて、中国に暮らす女性たちの社会的・歴史的な境遇や文化、労働に言及する小作品も新たに発表する予定だ(『Thank You Memory ‒醸造から創造へ-』弘前れんが倉庫美術館ブックレットより一部改稿)。
佐々木健は、2021年の夏、かつて祖父母が住んでいた家を「五味家(The Kamakura Project)」として公開し、自身の個展「合流点」を開催した。この展覧会は、知的障害を伴う自閉症の兄を持つ佐々木が、相模原障害者施設殺傷事件に衝撃を受け、家屋と庭と絵画によって、家族の歴史と自身のおかれた立場や境遇を告白し、また「芸術」や「福祉」が隠匿する社会構造の問題にリーチし、多くの反響を呼んだ。本展では、昨年の「合流点」でも発表された絵画などを展示する。
碓井ゆいは、女性や労働といった視点から歴史的かつ社会的批評性を持った作品を発表している作家。香水ボトルを模した《空(から)の名前》で小さなガラスボトルに貼られた名前は、太平洋戦争中に旧日本軍の「従軍慰安婦」とされた女性たちが慰安所で名付けられた源氏名だという。本展において碓井は、歴史的な事実から、女性たちや私たちの社会のなかにいまなお続いている痛みについて想いをめぐらせる。
アピチャッポン・ウィーラセタクンは、出身地・タイの言い伝え「名前を変えることで幸せになれる」にならって、新たに「水(Nach)」という名前を手にいれた女性のもとを訪れ撮影した映像作品《Cactus River》を出品。ウィーラセタクンが「日記」と呼ぶこの短い映像作品は、作家自身の作品にもたびたび出演している女性がパートナーと暮らすメコン川近くの家で撮影され、一概に善悪や正否を言い切ることのできない伝統や伝承に寄り添いながら、自身の幸福や真理の探究を行う女性の物語でもある。そして登場するふたつの流れ「メコン川」と「水(Nach)」は、それぞれの歴史や人生とも交差し、いずれ消えゆく流れの先に待ち受けるそう遠くはない未来の記憶を想起させる。
ジェームス・リー・バイヤースは、独自の神秘思想や瞑想体験から、自身の理想とする様式美を求め続けたコンセプチュアルな作家だ。バイヤースの彫刻やパフォーマンスは、時に装飾的・魔術的でありながら、一貫した美学のもと形而的な精神性をたたえている。
本展では大理石の彫刻を木製のキャビネットに収めた「The Figure of Question(問われる形状)」シリーズより《The Star Book》を展示。バイヤースは作品でたびたび星形をモチーフとして用いているが、これは人間のかたちの象徴でもある。今回は特別にバイヤースの《The Star Book》を、潘逸舟が星を描いてくパフォーマンス映像《My Star》と並べて展示し、人間が追い求める理想とは何か、改めて思いをめぐらす。
いっぽうYutaka Kikutake Galleryの展示では、関川航平、中島吏英、古橋まどかの3名が参加。会期中、出品アーティストによるパフォーマンスやワークショップなどの開催も予定している。