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コラージュ

Collage

「コラージュ(collage)」は、「糊で貼り付ける」という意のフランス語の動詞「coller」に由来する用語である。この「糊で貼り付ける」という、それ以前から存在する一般的な行為が、美術史の文脈において絵画制作上のひとつの手法として価値づけられたのは、パブロ・ピカソの《籐椅子のある静物》(1912)の誕生による。そこでは、キャンバスに描かれた籐椅子に、「籐の網目」の印刷されたオイルクロスが直接貼り付けられていた。

 同年、ジョルジュ・ブラックは木目を絵具で模造するのではなく、木目模様を入れた紙片をそのまま支持体へと貼り付けた「パピエ・コレ(papier collé)」を制作する(「貼り付けられた紙」という意をもつ用語「パピエ・コレ」は紙のみを貼り付けた作品を限定的に指す)。

 このとき用いられたオイルクロスや紙片、そして壁紙、新聞紙、雑誌、パンフレット、パッケージ、切手、マッチ箱などは、三次元の立体あるいは彫刻的な「構成(コンストラクション)」を、二次元の平面あるいは絵画的な「構図(コンポジション)」において切子面に分解し総合するキュビスムの方法に基づき、支持体上に移されたものである。それらは一見するとイリュージョンあるいは再現の一部──一種のトロンプ・ルイユ──としてレアリスムを引き寄せているようであるが、しかし直接的に表面の手前・・、表面のに貼り付き、支持体よりもわずかに強い物質性を放つこととなる。この異質性において、コラージュは飛び出し、後退し、また飛び出し、というように表面と奥行のどちらにも定まらない方向へと振動し、均質な平面を切り開き、ルネサンス以降の遠近法に基づくイリュージョニスティックな絵画空間を根本的に問い直すものとなった。

 こうした断片化は、シュルレアリスムにおいて、とりわけマックス・エルンストが行った、別々の素材をイメージとして切り貼りする、「異なった環境に置く」という意をもつ効果「デペイズマン(dépaysement)」となり、文脈を逸脱した異質なものが偶然に出合う、意味論的な痙攣を引き起こす実験へとつながっていく。また、写真の断片を切り貼りし、異なる現実を合成するコラージュは、写真の「組み立て(montage)」として「フォトモンタージュ」と呼ばれる。

 さらに、様々な素材、既製のオブジェから廃棄物までを構成要素として「組み合わせる(assembler)」という異質なものを出合わせるコラージュの三次元化、あるいは二次元のコラージュの形式に則り、それを包括しながら空間的に並置される制作物には「アッサンブラージュ(assemblage)」という語が与えられている。この用語はニューヨーク近代美術館のコミッショナーのウィリアム・C・サイツが、1961年に開催した「アッサンブラージュの芸術」展において、ネオ・ダダや環境芸術、ハプニングといった新たな芸術の動向をコラージュの概念のもとで美術史の系譜に位置づけ、コラージュを平面性から空間性へと大きく拡張するために打ち出したものであった。

 コラージュの概念は、その形態や意味の切断と結合の原理によって、物理的な平面や空間のみならず、非物質的なデジタルデータのカット・アンド・ペーストにまで至り、いまや表現技法としての価値を広範に獲得している。「コラージュ」は、ある領域と別の領域を断片化し、不連続なままに多層化、多重化させ、それらを逸脱/再編させる認識それ自体へと及んでいるのである。

文=中尾拓哉

参考文献
クレメント・グリーンバーグ「コラージュ」(『グリーンバーグ批評選集』藤枝晃雄訳、勁草書房、2005)
河本真理『切断の時代──20世紀におけるコラージュの美学と歴史』(ブリュッケ、2007)