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転位する「日本画」

 2003年3月、神奈川県民ホールで二日間にわたって開催されたシンポジウム。正式名称は「転位する「日本画」―美術館の時代がもたらしたもの」。美術評論家の北澤憲昭が代表を務める「現場」研究会が主催した。キュレーターの天野一夫、加藤弘子、評論家の北澤、椹木野衣、研究者の佐藤道信、古田亮、作家の岡村桂三郎、斉藤典彦らがパネラーとして登壇。明治期以降、「日本画」の概念が「洋画」と一対の存在として形成さされてきた歴史的経緯を踏まえ、実作と言説の両面から「日本画」の現在の可能性が展望された。

 検証の手がかりとなったのは、1988~98年の間に開催された、現代絵画としての可能性を「日本画」に見いだす一連の展覧会である(「ニュージャパニーズスタイルペインティング」(山口県立美術館、1988年)、「現代絵画の一断面―「日本画」を超えて」(東京都美術館、1993)など)。また、日本近代の政治、経済、社会、思想との関わりから「日本画」成立の概念を検証する学問的素地が整いつつあることも、シンポジウム開催に到る動機のひとつとなっていた。当日は制度論のみならず技法論や制作の現場から「日本画」の成り立ちを問う様々な意見が提出され、定義の不可能性や政治的背景の問題性などが指摘された。なお、シンポジウムの内容はブリュッケから刊行された同名の記録集に収録されている。

文=中島水緒

参考文献
『「日本画」—内と外のあいだで : シンポジウム<転位する「日本画」>記録集』(「日本画」シンポジウム記録集編集委員会編、ブリュッケ、2004)