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サンプリング/カットアップ/リミックス

Sampling / Cut-up / Remix

「サンプリング」「カットアップ」「リミックス」は、様々な前衛的な表現分野で、それぞれ独自の概念を持ち、利用されてきた手法である。技術として、音楽、美術、映像、文学などに広がり、またそれぞれが脱領域的に関連している。

 サンプリングは、音楽では、1940年代に、フランスのピエール・シェフェール、ピエール・アンリらのミュージック・コンクレートの音楽家や電子音響を扱うアーティストが、磁気録音テープやレコードを使って同じパートをループする、音をつなぎ変えるなどの編集をしたことから始まった。楽曲、自然音、人工音などを組み合わせた手法は、その後、ミニマル・ミュージックをはじめ、ポップス、ジャズ、ヒップホップにも多大な影響を与えている。

 カットアップは、テキストを分割(cut-up)して無作為に再構成する技法として、20年代のダダイストに源を求められる。ダダイズムの創始者で詩人のトリスタン・ツァラは、新聞記事などの文章から切り出した言葉をランダムに取り出してつなげて詩をつくり、同様にドローイングや印刷物をカットしてイメージを再構成した。また50年代末から60年代初頭にかけて小説家のウィリアム・バロウズと、画家で複数メディアの表現者のブライオン・ガイシンが、書籍のページや録音テープを再構成して新しい物語をつくったことでこの手法が大衆的に知られるようになった。当時、ガイシンは「文学は絵画より50年遅れている」と語っている。カットアップは、また音楽や映像でも偶然性や無作為性を応用して使われている。

 リミックスは、オリジナルの媒体を変化・加工・再編集し、新たな価値をつくり出すことである。音楽、美術作品、書籍編集、映像、詩、写真など、多くの表現でリミックスが可能である。リミックスが定着している音楽では、編集技術として詳細に体系化されている。文化的には60年代末から70年代初頭のジャマイカのダンスホールで地元の音楽を再編集するのに使われた。また70年代中期のクラブシーン以降、DJがダンスの流れを途切れなく盛り上がらせるためにリミックスするようになった。

「サンプリング」「カットアップ」「リミックス」は、80年代初期のハウス・ミュージックで多用された。これらにシミュレーションを加えて、それと通底する同時期のシミュレーション・アートにこの要素を見出し、シミュレーショニズムを美術の文脈で語ったのは、美術評論家の椹木野衣である。

 往年の作品からアプロプリエーション(流用、盗用)を用いて制作する方法は、過去の映画から着想したシーンを自分自身で演じて写真撮影したシンディ・シャーマンや、ピカソをはじめとした近代の巨匠アーティストの作品を再制作したマイク・ビドロ、ウォーカー・エバンスなどの写真作品を複写して作品にしたシェリー・レヴィーンや、数台のターンテーブルを並べて次々に既成のレコードをかけたり、数枚のレコードを分割して1枚に貼り合わせたり、また新旧多数の映画やテレビ番組から時計のシーンを抜粋し、実際の24時間の時間軸に沿って再構成したクリスチャン・マークレーの作品に典型的に見ることができる。

文=沖啓介

参考文献
デイヴィッド・コープ『現代音楽キーワード辞典』(石田一志、三橋圭介、瀬尾史穂訳、春秋社、2011)
山形浩生『たかがバロウズ本』(大村書店、2003)
椹木野衣『シミュレーショニズム −ハウス・ミュージックと盗用芸術』(洋泉社、1991)