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『眼の神殿 「美術」受容史ノート』

 美術評論家の北澤憲昭による初の著書。1989年に美術出版社から初版が、2010年にブリュッケから定本が刊行された。「美術」という概念が明治時代に西洋から移植されたものであること、また「美術」という言葉自体も1878年につくられた用語であることを制度史的な観点から明らかにしている。

 第1章では、高橋由一が博物館的な機能を持つ楼閣建築として構想した「螺旋展画閣」を大きくとりあげ、美術学校が整備され国粋主義が台頭していく歴史的背景をたどりながら由一が目指した「美術」の制度化を考察。第2章では内国勧業博覧会をモデルケースにしながら「見るための制度」がいかに構築されたかを検証するほか、それに伴う「美術」概念の形成を辿った。第3章では日本美術振興の仕掛け人であるアーネスト・フェノロサや岡倉天心の活動を追いながら国家と美術の関係性を考察している。

 もともとは同時代の美術批評を出発点とする北澤がこのような歴史研究に着手したのは、日本の前衛美術の来し方に対する問題意識があってのことである。日本の近代美術の成り立ちを現代美術の状況にも連なる観点から解きほぐした本という意味でも参照必須の文献である。

文=中島水緒

参考文献
『眼の神殿「美術」受容史ノート』(北澤憲昭、ブリュッケ、2010)