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サム・デュラント

Sam Durant

 サム・デュラントは1961年アメリカ・ワシントン州生まれ。過去にアメリカで見過ごされ、忘れ去られた歴史的・政治的な出来事や人種差別の問題を取り上げ、個人的な視点を喚起させるインスタレーションやドローイング、彫刻、写真など様々なメディアの作品を通して現代に投げかける。初期の「Abandoned House」シリーズは、第二次世界大戦後の住宅需要を予想してアメリカの西海岸で試みられた実験的住宅プログラム「Case Study Houses」の建物をモデルに、その模型を制作・破壊した作品。効率を重視した結果、一般家庭向けの低予算という当初の計画に見合わなかったこのプログラムにアメリカの将来像を重ね、大国の揺るがなさを前提として進んでいこうとする社会について考察している。制作においてしばしば、60〜70年代に活動したロバート・スミッソンの作品や、スミッソンの、物事はいずれも崩壊していくというエントロピーの思考を参照。69年のオルタモント・フリーコンサートでの殺害事件や、70年にケント州立大学で起きた銃撃事件を取り上げた自作には、スミッソンの作品を接続させている。

 2000年以降は、史実を起点としたインスタレーション、社会運動を題材としたドローイング、メッセージ性のある言葉を使った作品などを発表。ロサンゼルス現代美術館(2002)、ローマ現代アート美術館(2013)、ロサンゼルス・カウンティ美術館(2014)などで個展を開催し、第50回ヴェネチア・ビエンナーレ(2003)、ドクメンタ13(2012)など国内外の展覧会に多数参加。17年、ウォーカー・アートセンター(ミネアポリス)の彫刻庭園に設置した《Scaffold》が、ダコタ戦争の集団処刑を連想させるとして地元のダコタ族の抗議を受け、撤去に応じる。日本では近年、日露戦争での日本の勝利と、江戸時代の黒船来航をテーマとした個展「Borrowed Scenery」(Blum & Poe、東京、2015)を開催したほか、ヨコハマトリエンナーレ2017に参加。また、黒人解放組織ブラック・パンサー党のエモリー・ダグラスとの協働や、ハリケーンで被災したニューオーリンズの文化復興プロジェクトにも携わっている。