2021.7.10

アーティストはいかに困難を乗り越え、健康と向き合うのか? 平子雄一に聞く作品の思想と身体

植物や自然と人間の関係性を問いながら、ペインティングを中心にドローイングや彫刻、インスタレーション、サウンドパフォーマンスなど、多岐にわたるメディアで作品を発表してきた平子雄一。平子のアトリエにて、作品のテーマや取り組む姿勢、これまで乗り越えてきた困難、自身の健康と制作の関係などについて話を聞いた。

聞き手・構成=安原真広(ウェブ版「美術手帖」編集部) 写真=SAYO

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──平子さんの作品には多くの木々や花々、花を飾る花瓶、木と人間が一体となったような人物が描かれています。こうしたモチーフは、どのようなテーマをもって描かれているのでしょうか?

 植物をはじめとする自然と、人間と都市とのあいだに生じる関係性をコンセプトとして描いています。それぞれの関係性や互いの境界のあいまいさへの疑問を軸に、それを思考しつつ掘り下げながら、作品に落としこんでいます。

──植物や自然をテーマにしようと思った理由を教えてください。

 僕の故郷は周囲を山に囲まれた場所で、当たり前のように自然がある環境で育ちました。高校卒業後にイギリスへ留学し、やがてロンドンで都市的な生活を始めたときに、街路樹や公園の植栽など、人間が手間をかけてコントロールしている植物や、自然の断片が気になったんです。それから、人間と自然の関係について考えを深めるようになりました。

 当時の、とても印象的な思い出があります。ロンドンの公園を訪れたときに、そこでくつろいでいたグループが「自然はいいよね」「自然は癒やされる」という話をしていたんです。自分が岡山で感じていた「自然」と、彼らのいっている「自然」は、違うものなんですよね。人の手がたくさん入ったものでも彼らは「自然」だと感じている。その違和感がどんどんふくらんでいき、やがてその疑問を作品として落とし込んでいく、という方向性が定まっていきました。

 また、植物や自然の普遍性にも惹かれています。植物に触れたことのない人はいないですよね。国、人種、宗教を問わず、何かしらのかたちでみんなが触れている存在です。それぞれの自然観、植物観があり、それにもとづいて行動をしているわけで、多くの人に訴えかける可能性をもったテーマだといえます。

平子雄一「GIFT」(2021、KOTARO NUKAGA)展示風景より

──頭部が木のかたち、体は人間という、印象的な人物が平子さんの作品には登場します。あの人物もまた、自然と人間との関係を表象する存在なのでしょうか?

 最初は、植物という存在への違和感に向き合おうと、植物のある風景を描いていました。植物って、ペットほど愛情が注がれるわけではないし、枯れたらすぐに捨てられてしまうし、また甲斐甲斐しく世話をしたところで植物から強いリアクションが返ってくるわけでもない不思議な存在で、その不思議さをなんとかとらえようとしていました。

 やがて、自然や植物を何かしらのかたちでとらえようとしているのが、他でもない人間である自分だということを意識するようになりました。結局「自然や植物とはこういうものだ」と決めているのは人間なんですよね。

 歴史的に見ても、昔は好き勝手に自然を破壊して開発していたのに、やがて自然は守らなければいけない存在だという意識が生まれたり。自然や植物がどういうものなのか、という定義は人間がつくりあげたもので、その構造を可視化しようと考えたときに、植物と人間のあいだにあるような人物ができあがりました。

平子雄一のアトリエ風景より

──そうした自然や植物への疑問を表現するメディアとして、アートを選んだ理由を教えてください。

 小学生のころ、マンガのコマを拡大コピーし、トレーシングペーパーを使って模写することに夢中でした。上手な絵が描けることに憧れていたんですね。模写を続けることで絵の腕もあがって、オリジナルのキャラクターなども描いていた記憶があります。

 このように絵に対する興味というのは昔からあったので、自分のなかにある疑問やフラストレーションをかたちにするときには、自然と絵になりました。

──1日の制作活動はどのようにスケジューリングされているのでしょうか?

 8時にアトリエに入って17時まで制作をし、自宅で家族と食事をしたり子供を寝かしつけ、またアトリエに戻って9時から夜中の1時くらいまで制作するという二部制です。土日は夜の制作のみとしていますが、基本的に休んでいる日はないですね。睡眠時間が少し足りないので、疲れたら適宜仮眠をとるようにはしています。

──平子さんは絵画のほかに立体作品も多く手がけていますが、それぞれの制作時間のバランスはどのように配分されているのでしょう。

 絵画と立体の制作時間のバランスも考えています。絵画のほうが頭を使うんですよ。アクリル絵具は乾くのが早いので、描きながらも次の配色をすぐに考えなければいけません。描きながら、作品の目指すかたちがどんどん変わっていくんです。また、自分の体を動かしつつ、作品に近づいたり、また引いたりしながら描くので体力を使いますね。制作するときは、ジャズやテクノといった好きな音楽を大きめの音量で流して、自分のなかのものをぶつける感じで描きます。

 いっぽう、立体を制作するときは、そこまで思考が複雑ではありません。無心で作品に向き合うことができる。絵画と立体をごはんとおかずの関係のように、バランスよく配置して緩急をつけています。

──新型コロナウイルスの蔓延によって、ご自身の制作に向かう姿勢や、作品のコンセプトは変化しましたか?

 僕自身のスタンスとしては、描く速度をさらに上げていく必要があると思うようになりました。制作量も、クオリティの向上も、同時に追求していかなければいけない。世界中に死の恐怖を振りまくウイルスが蔓延し、先行きの見えない時代に、自分の有限性の範囲で、どれだけの作品を残すことができるのかと思うようになり、より制作に没頭するようになったと思います。

 また、自然や植物をテーマにした僕の作品を見る、みなさんの視点も変わってきたと思っています。新型コロナウイルスによって移動や活動が制限されて、生活を見直すなかで、みなさんそれぞれが自分の時間をどう使うかを、真剣に考え始めたんだと思います。そうなると自然や植物に対して目が向くようで、僕の作品についてもよりコンセプトまでを深く見てもらえるようになった印象です。僕自身の作品テーマは変わっていないのですが、みなさんの受け取り方が変わってきたと感じています。

平子雄一

──これまで15年弱、アーティストとして活動してきた平子さんですが、自身にとっての困難や、それを乗り越えた経験はありますか?

 小さい困難というのは山のようにあって、例えば「キャンバスにどのような色を乗せるべきなのか」とか「どこまで絵具を盛り上げてテクスチャーをつくるのか」、あるいは「どれほど散らかったら掃除が必要なのか」とか。クリアしなければいけない課題がアーティスト活動のなかではつねに現れます。何か象徴的な大きな困難というよりも、そういった小さな困難にきちんと向き合っていくことが大切だとは感じていて。「自分の作品が何百年も後に美術館に飾られるかもしれない」と考えたとき、展覧会ごとにきちんと納得する作品をつくっていくためには、小さな課題に真摯に向き合うことが重要だとは思っています。

 そう考えると、僕にとっての困難は、いつも未来に存在しているのかもしれない。「自分が将来つくるであろうまだ見ぬ傑作に、いかにしてたどり着くべきなのか」といった、具体的な困難の壁すら見えていない状態がつねにあるんです。結局、そこに立ち向かうためには、毎日一つひとつの作品をつくり続けるしかないのですが。

平子雄一「GIFT」(2021、KOTARO NUKAGA)展示風景より

──アーティストとして生きていくうえで、ご自身が大きな決断をし、チャレンジをした経験はありますか?

 最初は会社員をしつつアーティストをしていたのですが、そこからフルタイムで作家活動に専念するという決断は、自分にとって大きなチャレンジだったと思います。自分が会社で仕事をしているあいだにも、専業の作家はつねに作品について考えているわけですよね。それが10年、15年と積み重なったとき、結構な差が開いてしまうのではないか、ということに気がつきました。気づいてしまったからには、やはりアーティストとしての活動に専念しなければいけない。当時はまだ作品の販売だけで暮らしていける状態ではなかったのですが、あえて自分を追い詰めるかたちにはなりましたね。

 やがて結婚し、子供も産まれました。家族と過ごす時間は自分にとって、作家活動との切り替えの時間にはなりますが、小さい子供と全力で遊ぶのやはり疲れるときは疲れますね(笑)。でも、家族が良い意味で僕のウエイトになってくれる、このウエイトがあるから頑張れるし、制作のときに自分を爆発させられる。ひとりで制作しているときとは違う種類の充足感が得られますね。

 アートの世界って「こういった作品が売れる」ということに明確な答えがないわけです。魅力のある作品とは何か、自分でその価値を判断していくしかない。そうなるともう、自分を信じてつくり続けるしかないんです。それはいいプレッシャーだし、そのプレッシャーが僕は好きなんだと思います。

平子雄一

──休日もなく毎日制作し、小さな困難に日々向きあっている平子さんですが、ご自身の気持ちを切り替えたり、リフレッシュしたいときはどうしていますか? また、心と体をリフレッシュするうえで重要視していることは何ですか?

 音楽だと思います。アートをやっていなかったら音楽をやっていただろう、というくらい好きなので。新たにアトリエを用意する計画もあるのですが、そこでは防音室をつくって大音量で音楽を流し、弾けなくても楽器をそろえて、息抜きをしつつ制作できたらいいな、と思っています。また、制作は体力勝負ですので、しっかり食べてしっかり消化できないと勝負できないわけで、僕にとって胃はかなり重要な要素ですね。制作しているときは夢中になってしまってハイな状態なのであまり気がつかないのですが、やはり疲れや体調を知らせるバロメーターとして胃の状態は意識しますね。胃が元気でないと制作に向き合えないので。

──最後に、そんな平子さんにとって「胃とはなにか」をひとことで教えてください。

 胃って家族なんですよね、多分。共同体の一部であって、普段は何も意識しないし、そこまで気を使うものではない。でもそこに異常が現れると、やはりバランスが崩れてくると思うので、大切に見守らなければいけませんよね。

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※胃で働く乳酸菌とは、“胃で生き残る力が強く、胃での増殖性が高い”という特徴を「働く」と表現しております。