EXHIBITIONS

吉野もも「Make It Simple」

吉野もも Kami #76 2022 撮影=木暮伸也

 アーティスト・吉野ももの個展「Make It Simple」がMITSUKOSHI CONTEMPORARY GALLERYで開催される。

 吉野は1988年東京都生まれ。2012年に多摩美術大学絵画学科油画専攻を卒業し、14年にイギリスのロイヤルアカデミースクールファインアート科交換留学を経て、15年に東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修士課程を修了。吉野は、光と影を巧みにアクリル絵具で描きわけ、その絵が空間に影響することで私たち鑑賞者が存在する3次元をも取り込み、拡張していくようなトリッキーな絵画を制作している。

「Kami」シリーズは、多くの人が幼少期にいちどは遊んだ記憶のある日本独自の遊びである「折り紙」をモチーフとしたもの。近年では「Origami」として世界的にも認知され、あらゆる人々をつなぐコミュニケーションツールにもなっている。

 この折り紙のルーツをひも解いていくと、元来は神事において供物や贈り物を包むということから派生している。室町時代に包みを美しく折って飾る「儀礼折」が生まれ、江戸時代に入ると礼法や決まりなどからは離れて、紙も量産されたことで庶民にも親しまれるようになった。この折り方自体が楽しまれるようになったのが現在の「折り紙」だ。また折り紙の空間のとらえ方に目を向けると、四角いかたちから様々に折ってかたちを変容させることができる点は、日本建築の畳を敷く、障子で仕切るという自由な空間性と柔軟性を折り紙にも同様に見て取ることができる。

 吉野は「Kami」シリーズにおいて、「紙」と「神」というダブルミーニングのような意味合いを持たせており、ない場所に奥行きを見るということと、存在しない対象つまり森羅万象に畏怖の念を抱いて拝むという行為に類似性を見出している。このような背景を引用しつつ、吉野は「ある」と「ない」の狭間の状況を感じるような作品に昇華させている。

 本展タイトル「Make It Simple」にある「simple」は、ラテン語の語源が「sim:一回、ひとつ」「plico / plicare:折る、畳む」を意味する。吉野は今回の新作が、シンプルなかたちを中心としているということと、いちど単純な要素に立ち戻って制作したいという、自分自身への投げかけのようなものと語っている。