EXHIBITIONS

飯嶋桃代「Recovery room―ましましいねつるかも」

飯嶋桃代 展示作品(部分)

 繊細な素材を使ったインスタレーションなどを手がけるアーティストの飯嶋桃代が、ギャルリー東京ユマニテでは2年ぶりとなる新作展を開催する。

 飯嶋は1982年神奈川県生まれ。2011年に女子美術大学大学院美術研究科美術専攻博士後期課程を修了。古着やボタン、食器、鏡などの日用品を白いパラフィンワックス(蝋)に封じ込めた作品や、展示空間を覆いつくす大掛かりなインスタレーションによって社会と個人、家などとの関係性を、現実と虚構、相反する美しい空間とともにつくり上げてきた。

 飯嶋は近年、疾患と治癒をテーマに作品を制作。前回(2019)の個展では説話「因幡の白兎」をもとに、白兎が受ける痛みをを通過儀礼としてみなし、トランスフォーム(変化)する過程を映像や立体作品で表現した。

 これに続く本展は、病を回復していく空間「Recovery room」として、脳痙攣患者の脳波を楽譜に起こした音楽(作曲家・ピアニストの久保田翠との協働)や、日本最古の薬とされる蒲黄(ほおう)と振り子を使った物理現象を取り入れた作品、木蝋と木材でつくられた人体一部の彫刻などで構成される。

 今回の展覧会タイトルの副題「ましましいねつるかも」は、『伊予国風土記』の逸文からの引用。古代の薬や温泉の神スクナヒコナが瀕死の状態で道後温泉に浸かり、回復時に「しばらくの間寝ていたかのようだ(ましましいねつるかも)」という言葉を発したと伝わっている。

 つねに新たな視点で考察された美しくも儚く、力強い世界を見せてくれる飯嶋。病とそれを治癒する2つの力の微妙なバランスや兆候など、ささやかな変化を視覚と聴覚の両面から感じられる今回のインスタレーションでは、病を眠りや臨死体験のようにとらえる。