EXHIBITIONS

イム・ミヌク「Hyper Yellow」

2024.03.01 - 03.12

イム・ミヌク 東海史(スチル写真) 2024 3チャンネルビデオ 8分45秒

イム・ミヌク 東海史(スチル写真) 2024 3チャンネルビデオ 8分45秒

イム・ミヌク 東海史(スチル写真) 2024 3チャンネルビデオ 8分45秒

(参考画像) イム・ミヌク S.O.S - 走れ神々 パフォーマンスコンセプトドローイング  2024

 公益財団法⼈⼤林財団が2017年から隔年で⾏ってきた助成事業《都市のヴィジョン》。その第4回助成対象者イム・ミヌク(Minouk Lim)の展⽰「Hyper Yellow」が駒込倉庫で開催されている。
 
 韓国のアーティスト、イム・ミヌクは、ジャンルの拘束と規定からの脱却を試みるパフォーマティブな形式を通じて、「消えたもの、⾒えないものを追跡」する美的実践を続けている。輸送⼿段を⽤いるパフォーマンスやそれをベースにした映像、放送機材をモチーフにしたインスタレーション、⽇⽤品や有機物を素材とするオブジェなどの作品を通して、近代性とアイデンティティへの問い、共同体と記憶、時間と空間に隠蔽された場所への思索を重ね、歴史と環境から派⽣した時間の断⽚を探る。

 イムの代表作のひとつである《ポータブルキーパー》シリーズ(2009-)は、破壊と喪失、忘れられた時空、そして犠牲者への哀悼と記憶の復元のための祭儀的オブジェ。古代のシャーマンが⽤いる杖を思わせる本作には、扇⾵機の⽻根やフェイクファーのような⼈⼯物、⿃の⽻やイカの⾻などの⾃然物が使われており、それぞれ喪失感やトラウマといった複雑な感情を治癒する意味が込められている。また、2009年の《S.O.S ‒ Adoptive Dissensus》など、観客をパフォーマンスの⼀部として組み込んだ、演劇的とも⾔えるツアー型の作品では、開発と保存、⼈間と都市といった現代社会が直⾯している様々な政治的かつ現実的な問題を鋭く取り上げている。
 
 本展は、イムの2年間にわたる⽇本でのリサーチとクリエーションの成果として、ドローイングとオブジェ、映像インスタレーションを含むおよそ20点の新作を発表するもの。

 今回、イムは、⽇本における祭儀に現れる平⾏する世界と流動的な境界に着⽬し、歴史、国家、信仰、そして⽣態学的・地理的感覚の再編成を試みたという。

 展⽰のタイトル「Hyper Yellow」、つまり「⻩⾊を超越した」状態は、特定の⾊や⼈種を指す⾔葉を越え、どこにも存在しないが、どこにでも存在する境界線の意味を問いかけます。その⻩⾊を表現したドローイングと新作《ポータブルキーパー》は、テラコッタの粉を使って制作された。1100℃で焼かれたテラコッタを粉砕し、散布し、乾燥させる作業を繰り返すことで完成した本作の⻩⾊は、炎を象徴するかのようだ。

 ドローイングや⽂字の作品には、スポンジ、パラフィン、ブイとともに、イムにとって重要な素材のひとつであるイカの⾻が登場する。誰でも海辺で⾒つけられる、取るに⾜らないイカの⾻は、⼈類の祖先のように、時にはエイリアンのように、境界を遡る存在。イムはイカの⾻に刻まれた微細な波紋を観察し、作品に施すことで、それが海の指紋であり⾔語であると私たちに仄めかす。映像作品《東海史(East Sea Story)》は、イムが屋形船で撮影した東京の夜景、東⼤寺の⽕の祭典「お松明」と⽔の祭り「深川⼋幡祭り」を撮影した映像に、3Dグラフィックやアニメーションを組み合わせた観光ドキュメンタリー。この作品では、⾒慣れたものと⾒知らぬものの間を常に⾏き来しながら街を旅する観光客の視点によって、観客に最も具体的な瞬間と最も抽象的な経験を同時に与えることを試みている。

 イムは今回、私たちが架空の観光客またはエイリアンとなり、新たな感覚で、移動や越境によって形成されてきた⽇本の宗教と⽂化が息づく都市に触れることを促す。