ART WIKI

サイト・スペシフィック・アート

Site-Specific Art

 特定の場所で、その特性を活かして制作する表現。「サイト・スペシフィック・アート」という表現としては、立体物を設置したものが多いが、身体表現で場所と関わる、自然物の物理的均衡を用いて作品を構築するなど様々な方法が存在する。「サイト」という観点では、森林、砂漠などの自然環境、都市、村落、田園などの社会環境、さらには水中などの特殊な環境など多様な選択肢があり、また恒久性、一時性という表現上の設計の違いを見ることもできる。

「サイト・スペシフィック」という言葉を概念的に示したのは、インスタレーション・アーティストのロバート・アーウィンである。批評では、美術批評のルーシー・リパード、建築批評のキャサリン・ハウエットが1977年にこの概念をそれぞれが取り上げている。公共空間との関わりのなかに立体作品を設置したパトリシア・ヨハンソン、デニス・オッペンハイムなどのアーティストの作品によって70年代に言葉として一般化した。いっぽうで場所に関わった表現は、例えばランド・アートのロバート・スミッソンがユタ州ソルトレイクで行った《スパイラル・ジェッティ》(1970)、「包む」ことを屋外空間に拡大していったクリストの一連の作品。ウォルター・デ・マリアの《ライトニング・フィールド》(1977〜)は、雷が落ちやすい平原に400本の金属棒を設置して稲妻を走らせるものだ。身体表現で言えば、振付家のトリシャ・ブラウンによる《ルーフ・ピース》(1971)は、ダンサーたちをニューヨークのダウンタウンの建物の複数の屋根に点々と配置したもので、「サイト・スペシフィック・ダンス(あるいはパフォーマンス)」とも言われる。

 また「ナチュラル・アート」とも区分されるリチャード・ロングやアンディ・ゴールズワージーの自然物を特定の場所で組み合わせた作品などもある。このように「サイト・スペシフィック」な表現は70年代以降に多岐にわたって出現している。現在は表現形式というよりは、むしろ概念として用いられる場合が多い。

文=沖啓介

参考文献
『Art & Place: Site-Specific Art of the Americas』(Phaidon Press、2013)