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社会彫刻

Social Sculpture

 ドイツのアーティスト、ヨーゼフ・ボイスが提唱した概念。「拡張された芸術概念」とともに「社会彫刻」は、ボイスの思想と活動の原理である。これらを総じてわかりやすく述べるならば「すべての人間は芸術家である」というボイスの言葉に代表される。ここでの「芸術」は、教育活動、政治活動、環境保護活動、宗教なども含めた拡張された意味での芸術活動・芸術作品である。ボイスは、いかなる人間の営み、芋の皮をむくといった行為でさえ、意識的な活動であるならば、芸術活動であるとその社会性を説明している。つまり社会彫刻は、自ら未来のために社会を彫刻していこうという考え方である。

 ロマン派詩人のノヴァーリスやフリードリヒ・フォン・シラー、あるいはルドルフ・シュタイナーの人智学などの影響が見られるボイスの思想は、単純に社会活動原理として捉えると齟齬をきたす。ボイスの生涯の活動は、様々に検証されているが、むしろ神秘主義や物語性などの創作部分を含めて理解することができる。ボイスの全活動が社会彫刻と考えられるが、あえて作品という観点からすれば、晩年近くのドクメンタ7(1982)で開始され、没後のドクメンタ8(1987)で完成したプロジェクト「7000本の樫の木」が象徴的な集大成だろう。会場のカッセル市に樫の植樹とともに玄武岩を置いていく同プロジェクトでは、樫は生、変化しない玄武岩は死を意味し、生死の存在によって世界が成立することを表している。

文=沖啓介

『BEUYS IN JAPAN ヨーゼフ・ボイス よみがえる革命』(水戸芸術館現代美術センター、2010)
若江漢字、酒井忠康『ヨーゼフ・ボイスの足型』(みすず書、2013)
菅原教夫『ボイスから始まる(五柳叢書)』(五柳書院、2004)