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コンクリート・ポエトリー

Concrete poetry

 1950年代初頭にドイツとブラジルで興った実験詩の運動。具体詩とも言う。その最初期の試みは、スイスの詩人オイゲン・ゴムリンガーが1953年に刊行した詩集『星座』に見ることができる。マラルメ『骰子一擲』のタイポグラフィに影響を受けたゴムリンガーは、伝統的な行形式による詩から離脱し、空間的・視覚的に語を配した詩作品を同書で発表した。

 詩をシンタクスから解放して自律した言語芸術へと至らしめたその試みは、はじめドイツ語圏で反響を呼び、その後国際的な影響力を誇るようになった。まもなくゴムリンガーはブラジルの前衛詩のグループ・ノイガンドレス派のメンバーと交流し、共同で「コンクレーテ・ポエジー」の理論を提唱する。いっぽう日本では、新国誠一がコンクリート・ポエトリーの実験を独自に洗練させ、63年に日本初のコンクリート詩集ともいうべき『0音』を刊行した。新国によるコンクリート・ポエトリーには形象・音声をそれぞれ素材とする「象形詩」と「象音詩」の2種があり、表意文字(漢字)文化圏の詩人ならではの創意が発揮されていた。

 その後新国は藤富保男らと共に「芸術研究協会(ASA)」を設立して機関誌『ASA』を創刊する。同誌はドイツやブラジルのコンクリート・ポエトリーの状況やゴムリンガーの詩論を紹介するほか、フランスのピエール・ガルニエと新国の共同制作による詩を掲載するなど、国際交流的なメディアとして重要な役割を担った。

文=中島水緒

参考文献
『新国誠一の「具体詩」 詩と美術のあいだに』(武蔵野美術大学美術資料図書館、2009)
『記号としての芸術 講座・記号論3』(川本茂雄ほか編、勁草書房、1982)