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アンフォルム
L'Informe
フランスの思想家ジョルジュ・バタイユが、自ら事務局長を務めたグラビア雑誌『ドキュマン』で論じた、毛髪や泥、蜘蛛、痰といった、定まった理想の形を持たず、また何かの象徴として詩的な言語に置き換えられることのないような、取るに足りない物質を指す言葉。アンドレ・ブルトンにシュルレアリスムを除名された詩人や画家たちが集った同誌で、バタイユは、シュルレアリスムに潜むひとつの理念へと上昇しようとする志向を観念論として退ける一方で、同誌に掲載された足の親指や屠殺場などの大判の写真図版が示すように、身体を持ち都市を生きる人間がしばしば直視することを避けてしまう、不定形な物質としての現実を肯定する議論を展開した。
1996年、美術史家・美術評論家のイヴ=アラン・ボワとロザリンド・クラウスは、共同企画「アンフォルム:使用の手引き」(ポンピドゥ・センター、パリ)のなかで、モダニズムの進歩史観や絵画の自律性にまつわる議論に抵抗する概念として、このバタイユ由来の言葉を再評価した。ここではアンフォルムが、従来の美術批評による作品の分類を乱すための四つの操作、すなわち視覚野の垂直性を崩す「水平性」、理想的な形態が与えられない物質の誘惑を引き出す「低級唯物論」、視覚体験に不均質な時間を介入させる「パルス」、あらゆる秩序を暴力的に劣化させる「エントロピー」として取り扱われる。
必ずしもバタイユの思想に忠実ではない独自のアンフォルム解釈によってモダニズムの変質を試みるボワとクラウスは、美術批評家ミシェル・タピエの「アンフォルメル」を、物質にイメージを投影するものとして、また哲学者ジュリア・クリステヴァの「アブジェクシオン」に依拠する美術批評を、嫌悪感を催させる事物そのものへ作品の意味を還元するものとして強く批判し、差別化を図っている。
1996年、美術史家・美術評論家のイヴ=アラン・ボワとロザリンド・クラウスは、共同企画「アンフォルム:使用の手引き」(ポンピドゥ・センター、パリ)のなかで、モダニズムの進歩史観や絵画の自律性にまつわる議論に抵抗する概念として、このバタイユ由来の言葉を再評価した。ここではアンフォルムが、従来の美術批評による作品の分類を乱すための四つの操作、すなわち視覚野の垂直性を崩す「水平性」、理想的な形態が与えられない物質の誘惑を引き出す「低級唯物論」、視覚体験に不均質な時間を介入させる「パルス」、あらゆる秩序を暴力的に劣化させる「エントロピー」として取り扱われる。
必ずしもバタイユの思想に忠実ではない独自のアンフォルム解釈によってモダニズムの変質を試みるボワとクラウスは、美術批評家ミシェル・タピエの「アンフォルメル」を、物質にイメージを投影するものとして、また哲学者ジュリア・クリステヴァの「アブジェクシオン」に依拠する美術批評を、嫌悪感を催させる事物そのものへ作品の意味を還元するものとして強く批判し、差別化を図っている。
参考文献
江澤健一郎『ジョルジュ・バタイユの《不定形》の美学』(水声社、2005)
イヴ=アラン・ボワ、ロザリンド・E・クラウス『アンフォルム:無形なものの辞典』(加治屋健司、近藤学、高桑和巳訳、月曜社、2011)