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『ドキュマン』

Documents

 思想家・作家ジョルジュ・バタイユが中心となり発行したフランスの雑誌。1929年4月から2年間で計15号が出版された。「ドキュマン(Documents)」は、ドキュメント(資料)の複数形であり、さまざまな専門性をもった執筆者によるテクストが雑種的で領域横断的な言説空間を形成した。

 創刊号の表紙の表題の下には「学説、考古学、美術、民族誌」と記されており、雑誌の大まかな方向性をみることができる。当初は学術的な雑誌として企画されたが、シュルレアリスム運動から離脱した元シュルレアリストたちがバタイユのもとに合流し、雑誌は多様かつ異質な知の集合体となった。バタイユはこの雑誌を舞台に「足の親指」「不定形の」「低次唯物論とグノーシス」「腐った太陽」などの重要なエッセイを発表した。『ドキュマン』をとりわけ特異なものにしているのは、バタイユが中心となって進められたと考えられる、テクストと図版の異種交配的性と図版の独特な配置にある。雑誌には、一頁大の大きな図版も多数掲載され、読者に強い視覚的印象を与える。

 1992年には、二巻本の復刻版がジャン=ミッシェル・プラス社から刊行された。この復刻版の刊行以来、『ドキュマン』はさまざまな研究者の注目を集めた。その一例として、ジュルジュ・ディディ=ユベルマンの『不定形の類似、あるいはジュルジュ・バタイユによる視覚的な悦ばしき知』(1995)や、ロザリンド・クラウスとイヴ=アラン・ボワ『アンフォルム(フォームレス):手引書』(フランス語版は1996年、英語版は1997年)などがある。また、現在では、フランス国立図書館が運営するデジタル図書館「ガリカ」において、オンライン上での復刻版の閲覧が可能である。

文=沢山遼

参考文献
『ドキュマン』(ジョルジュ・バタイユ著、江澤健一郎訳、河出書房新社[河出文庫]、2014)