ART WIKI

開かれた作品

Opera Aperta

 イタリアの哲学者・作家のウンベルト・エーコが1962年の同名の著書であらわした概念。芸術作品は基本的に曖昧なメッセージであり多様な意味内容を持つという考えから出発したエーコは、作品に対する受け手の関与の積極性を理論化し、受け手との享受関係の中で実現される「開かれた作品」のあり方を多様なジャンルに基づいて考察した。

 思考のモデルとなったジャンルは、詩、文学、音楽、視覚芸術、テレビ放映など多岐に渡り、ステファヌ・マラルメ、ジェイムズ・ジョイス、ピエール・ブーレーズらの作品が参照された。視覚芸術についてはアンフォルメル、アクション・ペインティングなどが取り上げられ、つねに変化する「読み」へと開かれた作品が他のジャンルとも連接する可能性を持つことが指摘された。「開かれた作品の構造」と言われるとき、それが様々な作品の個別的な構造を指すわけではないことには注意が必要である。「開かれた作品の構造」とは、受け手との享受関係の中で設定された、ある作品群を記述するための一般的モデルである。

 「開かれた作品」という概念が芸術一般の本性や機能のすべてを解き明かすわけではないが、エーコ自身が述べるところによれば、本書の狙いは、詩学の企図を明らかにすることで文化史の一局面を解明することにあった。美学理論、文化史あるいは詩学の歴史についての論文集として、広く読まれている書物である。邦訳は84年に篠原資明と和田忠彦の共訳により青土社から刊行された。

文=中島水緒

参考文献
『開かれた作品』(ウンベルト・エーコ著、篠原資明、和田忠彦訳、青土社、1984)