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トランス・アヴァングァルディア

Transavanguardia

 1970年代末から80年代にかけてイタリアで興った具象絵画の動向。世界的に流行した新表現主義のイタリアにおける潮流。美術評論家のアキーレ・ボニート・オリーヴァが命名し、通称「3C」と呼ばれる画家たち(フランチェスコ・クレメンテ、エンツォ・クッキ、サンドロ・キア)が中心的に活躍した。「前衛(avanguardia)」を「超える(trans-)」という語源の通り、過去のアヴァンギャルドを乗り越えることが彼らの活動の方向性とされた。

 オリーヴァによればトランス・アヴァングァルディアの作家たちは「あらゆる中心性から解放されたニヒリスト」であり、その作品は、細部に集中する物語風の描写、社会的存在としての自己を強く意識する必要がないソフトな主題、折衷主義的な様式などを特徴とする。実際にトランス・アヴァングァルディアの作家たちの絵画作品は、進歩主義的な歴史観から距離を置き、マス・メディアのイメージが氾濫する大衆文化から歴史的アヴァンギャルドの芸術・文化までを混淆的に扱うものであった。この意味でトランス・アヴァングァルディアの作家たちはポスト・モダニズムの寵児だったと言える。

 例えばキアは豊満な肉体を持つ人物像を神話的な設定で表し、クレメンテはインド滞在の経験から東洋思想に傾倒した作品を手がけ、クッキはイタリアの伝統に根差した予言的図像を力強い描線で描き出した。そのほかの代表作家にミンモ・パラディーノ、ニコラ・デ・マリアなど。

文=中島水緒

参考文献
『イタリアン・トランスアヴァンギャルド』(西武百貨店編、西武百貨店、1986)
『アール・ヴィヴァン』9号「特集=ペインティング・ナウ」(西武美術館、1983)