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サイバネティック・セレンディピティ

Cybernetic Serendipity

「サイバネティック・セレンディピティ」展は、1968年にロンドンのICA(Institute of Contemporary Arts)で学芸員ヤシャ・ライハートによって企画、開催された展覧会で、その後のコンピュータ・テクノロジーを用いたアートの先駆となった。

 数学者ノーバート・ウィーナーが「サイバネティックス」理論として自動制御とフィードバックを工学、生理学、さらに文化的な意味を説いたことに影響を受け、展覧会のタイトルにそれが反映されている。また「セレンディピティ」の意味は、「思わぬものを偶然に発見すること」である。

 ラインハートは同展について、「成果よりも可能性を扱ったものであり、その意味では時期尚早の楽観的なものである。なぜなら、コンピュータはこれまでのところ、科学に革命をもたらしたのと同じようには、音楽にも芸術にも詩にも革命をもたらしていない」と、技術とそれが切り拓く先駆性と芸術における技術受容の未成熟さを併せ持つと評している。

 展覧会は以下の内容で構成された。

1. コンピュータで作成されたグラフィックス、アニメーション、コンピュータで作曲され、また演奏された音楽、コンピュータでつくられた詩やテキスト
2. 芸術作品としてのサイバネティック装置、サイバネティック環境、遠隔操作ロボット、絵画制作装置
3. コンピュータの利用とサイバネティックスの歴史の取り組みを表現した機械

 同展には、シンセサイザーのパイオニアでEMS(Electronic Music Studios)社の創立者のひとりであるピーター・ジノヴィエフ、フルクサスに参加し、自動崩壊アートで知られるグスタフ・メッツガー、理論家でライターのゴードン・パスク、アーティストでパフォーマーのブルース・レイシー、ヴィデオ・アーティストのナムジュン・パイク、キネティック・アートの作家ジャン・ティンゲリー、蔡文穎(ツァイ・ウェンイン)、ロボティクス作品を制作したエドワード・イナトウィッツ、コンピュータ・アニメーションの先駆者のジョン・ホイットニー、同展でコンピュータ生成の詩を発表したアーティストのアリソン・ノウルズと音楽家のジェームズ・テニーら、ワイヤーフレーム・グラフィクスを展示したボーイング社、そして通信研究のベル研究所など、多彩な顔ぶれが多様な表現で参加した。

 展覧会は、ロンドンの展示の後、アメリカ・ワシントンD.C.のコーコラン美術館別館、サンフランシスコのエクスプロレタリウムで開催された。

文=沖啓介

参考文献
大泉和文『コンピュータ・アートの創生: CTGの軌跡と思想 1966-1969』(NTT出版、2015)
ヤシャ・ライハート『Cybernetics, Art and Ideas』(New York Graphic Society、1971)
ヤシャ・ライハート『Cybernetic Serendipity the computer and the arts』(Studio International、1968)