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実験音楽

Experimental Music

「実験音楽」という言葉が使われ始めたのは1950年代で、53年にミュージック・コンクレートの創始者のピエール・シェフェールと研究グループ「Groupe de Recherches Musicales Concrete(GRMC)」(58年「Groupe de Recherches Musicales(GMR)」に改組)が「実験音楽」という言葉を使い始めた。その後、55年に作曲家のジョン・ケージが、自身の音楽を称する言葉として使ったと言われている。ケージは、実験的行為の本質とは「結果を予知できない行為」だとした。他方、作曲家デイヴィッド・コープは、実験主義は音楽の限界についての「問い直し」であるとしている。またコープは音楽家がマルセル・デュシャン、マン・レイ、ロバート・ラウシェンバーグ、ワシリー・カンディンスキーらの美術家から大きな影響を受けたことも述べている。

 しかしいっぽうで、美術あるいは視覚芸術よりずっと早く、音楽は電子技術、コンピュータなどに取り組み、「電子音楽」を生み出してきた。すでに20世紀に移る前後から電子技術を用いた実験は行われていた。

 電子楽器という観点からすると、「テレハルモニウム」(1897、1906)、「テルミン」(1924)、「オンド・マルトノ」(1928)などが登場している。第二次大戦後には、「シンセサイザー」が出現。また音楽表現から離れて、物理現象としての「音」を音響的に扱うことは、「テープレコーダー」を使用した録音技術の出現によってもたらされており、楽音とその他の音(自然音、噪音など)との差はなくなった。90年代以降に顕著になったデジタル技術を用いた「サンプリング」は、さらに大きな可能性を与えている。

 実験的に「音」を使った表現という意味からすると、現代音楽の枠組みを超えて、広く多様な表現が存在する。「サウンド・アート」は、音楽だけにとらわれない実験的な芸術表現である。現代音楽以外の実験的アプローチは、ジャズやポップス、さらにノイズ、インプロビゼーション、エレクトロニクス、ヒップホップなどにも広がっており、ジャンルを超えて互いに影響し合っている。

文=沖啓介

参考文献
デイヴィッド・コープ『現代音楽キーワード事典』(石田一志、三橋圭介、瀬尾史穂訳、春秋社、2011)
ジョン・ケージ『ジョン・ケージ著作選』(小沼純一編、ちくま文庫、2009)
フィリップ・ロベール『エクスペリメンタル・ミュージック』(昼間賢、松井宏訳、NTT出版、2009)