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シチュアショニスト・インターナショナル/アンテルナシオナル・シチュアシオニスト

Situationist International / Internationale Situationniste

 ヨーロッパで始まったシチュアショニストの活動は、1957年にイタリアで開催された会議で正式に「シチュアショニスト・インターナショナル」として結成された。その活動は、57年から72年までの15年間である。

 46年にフランスでイジドール・イズーが開始したレトリストの急進的分派にあたる「レトリスト・インターナショナル」、48年に開始されたデンマーク、ベルギー、オランダを中心とした芸術運動「コブラ」から分離した「イマジニスト・バウハウス」、イギリスの「ロンドン心理地理学委員会」の構成者らが母体となっている。また「シチュアショニスト」は、あくまで状況の構築に実践的に関わるという意味で命名された呼称であり、教条的な主張や「イズム」によって組織されたグループではない。その意味で「シチュアショニズム」という思想を想起させる呼称は否定されている。

 ギイ・ドゥボールが著した『スペクタクルの社会』に代表される思想が運動の理論的支柱となっている。著述家、映画作家であり、運動の中心を担ったドゥボールは、シチュアショニスト結成以前はレトリスト・インターナショナルのメンバーとして芸術・文化領域で、詩、映画、絵画、政治理論を展開。後のシチュアショニストの運動につないでいる。

 ドゥボールの思想は、マルクス主義を基礎とした急進左翼の文脈でとらえられるが、官僚主義や国家資本主義化した既存の共産主義とは大きく異なっている。理論展開のコアとなる「スペクタクル」が示すものは、メディア、消費社会、文化、科学などの様々な事象やものと人間がとり結ぶ諸関係が、物象化のように人間に支配的に立ち振るまうことである。カール・マルクスが初期に、商品、労働、疎外、物神などについて考察したことを、高度化した資本主義のなかでドゥボールはさらに発展させた。

 そのほかの代表的な文献としては、ラウル・ヴァネーゲムの『日常生活の革命』がある。この本は、ドゥボールの『スペクタクルの社会』と同年に出版され、両者によってシチュアショニストの思想の根幹が形成されている。またフランスのマルクス主義社会学者、哲学者のアンリ・ルフェーブルは、人的、思想的にもシチュアショニストとつながりがあり、ルフェーブルの著書『日常生活批判』にも影響を与えた。

 68年のパリ五月革命の若者の活動や、70年代中期に始まったイギリスなどのパンクにも影響を及ぼしたシチュアショニストの表現活動の主な概念は、「状況の構築」「漂流」「心理地理学」「転用」「工業絵画」「革命」などの言葉に代表される。そして、絵画、写真や絵のコラージュ、グラフィック、落書き、映画、コミックなどが表現に使われている。文字やシンボルを扱う「ハイパーグラフィー」、都市論「ユニタリー・アーバニズム」など、とりわけ運動初期に活発な活動が見られる。またシチュアショニスト・インタナショナルの機関紙に掲載されている文章は、自由に転載、翻訳などが許可され、後のフリーカルチャー、オープンカルチャーにも先駆けている。

文=沖啓介

参考文献
クレア・ビショップ『人工地獄 現代アートと観客の政治学』(大森俊克訳、フィルムアート社、2016)
ラウル・ヴァネーゲム『The Revolution of Everyday Life』(ドナルド・ニコルソン・スミス英訳、PM Press、2012)
ハンス・ウルリッヒ・オブリスト「In Conversation with Raoul Vaneigem」(e-flux、Journal #06 - May 2009」(https://www.e-flux.com/journal/06/61400/in-conversation-with-raoul-vaneigem
サイモン・フォード『The Situationist International A User’s Guide』(Black Dog Publishing、2005)
トム・マクドナー『Guy Debord and SITUATIONIST INTERNATIONAL』(MIT Press、2002)
ギイ・ドゥボール『スペクタクルの社会についての注解』(現代思潮新社、2000)
ギイ・ドゥボール『映画に反対して - ドゥボール映画作品全集(上・下)』(現代思潮社、1999)
ギイ・ドゥボール『スペクタクルの社会』(平凡社、1993/筑摩書房、2003)