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ジェームズ・アンソール

James Ensor

 ジェームズ・アンソール(エンソール)は1860年生まれ。表現主義の先駆けとされる、ベルギーを代表する画家。ブリュッセルの王立美術学校で学んだ。アンソールの作品を特徴づける「仮面」は、実家が骨董品や土産品を商いで扱っていたことから身近なものだった。故郷オーステンデのカーニバル、仮面、どくろなどをモチーフに、ヒエロニムス・ボスやピーテル・ブリューゲルに連なる、フランドル絵画特有のグロテスクな表現を取り入れつつ独自の画風を確立。家庭環境の悪化をひとつのきっかけに、人間の内にある虚栄心や残酷さに目を向けるようになり、豊かな色彩とユーモアをもって、代表作《陰謀》(1890)や《仮面の中の自画像》(1899)などで表現している。

 アンソールは、フランスの印象派や新印象派をはじめとして、ベルギー周辺の前衛的な動向を積極的に紹介したブリュッセルのグループ「二十人会」に参加していた。しかしその不気味さ故に作品はグループに受け入れられず、出展拒否にも遭い、浮いた存在だった。のちに多く画家たちが興味を示すことになる人間の内面について、時代に先行して描いた。

 大作《キリストのブリュッセル入城》はエルサレム入城を主題としながら、救済者であるキリストに自身を投影し、周囲に群がる大衆(自身を拒絶する画壇や保守的な美術評論家)のあいだを縫って凱旋するという皮肉を暗に込めたとも取れる。いっぽうで初期作の《牡蠣を食べる女》(1882)といった、印象派を参照した作品なども残している(しかし、女性の描き方から発表当時は問題作とされた)。「二十人会」の解散以後は特定のグループに属すことなく、出身地の港町オーステンデで暮らした。1949年没。現代ではルネ・マグリット、ポール・デルヴォーと並ぶ、ベルギー近代画壇の3巨匠のひとりに数えられる。