けんすう流、NFTの使い方とその現在地。現代アートとNFTの関係性をどう見るか?

テクノロジー企業「アル」を経営しながら、様々なNFTサービスを開発・ローンチしているけんすう。けんすうがいまNFTに注力する理由は何か。そしてNFTアートの現在地は? Adam byGMOがお送りするスペシャルインタビュー。(PR)

聞き手・文=山内宏泰

 「marimo」「sloth」など、キャラクターやペットをNFT上で「所有」できるサービスを運営しているアル。その創業者であり、現在も代表を務めているけんすうがNFTに着目するのはなぜか。また、どのようにNFTと付き合っているのか。その流儀の一端を見せてもらうとともに、現代アートとNFTの関係性や、両者を掛け合わせることによって生まれる可能性についても話を聞いた。

けんすうのアイコン「ロケスタくん」

─NFTという言葉自体は浸透してきている印象ですが、実際はどの程度普及しているのでしょうか。

 そうですね、「そんなの聞いたことない」という人はかなり減りました。ただし、「持っている」「買ったことがある」という人がどれほどいるかといえば、まだまだ少ない。NFTのプロジェクトを展開している側からすると、これは仕方がないところかと思います。どれだけ広まったとて、NFTを全国民が扱うような事態にはなりえないでしょうから。

 例えば株式投資という言葉やしくみは皆知っているけれど、株式投資をしている人の割合は国民の3割にも満たない。すべての人の関心を惹くものなどありませんから、NFTもいくら普及したって利用者は全体の3割を超えないと思います。

──それでもいま、けんすうさんがNFTに注力するのはなぜですか。

 いちばんの理由は、キャラクター大国ニッポンの強みを生かした、新しいコンテンツが生み出せそうだと感じるからです。ポケモンやプリキュア、ハローキティにドラえもん、鉄腕アトム……。日本はキャラクター大国として知られています。キャラクタービジネスは世界の市場で戦える数少ない分野でしょう。 

 NFTと組み合わせると、キャラクターづくりにはいろいろな面でさらなる変化が生じるはず。例えばプロジェクトの立ち上げと同時に数千万円単位の資金を集めることができたり、いきなりファン・コミュニティを形成することもできます。

 キャラクターのパターンを5000種類つくることだって可能ですし、拡散方法にしても短尺動画をたくさんつくってSNSに投稿していくようなことも考えられる。他のキャラクターもしくは企業などとのコラボレーションもしやすいです。「キャラクター×NFT」なら、これまでとはまったく違うキャラクターのつくり方がたくさん出てくる。そこを探求するのが面白いんです。

──ご自身が手がけるNFT「marimo」や「sloth」は、その実践ということでしょうか。

 そうですね、marimoはその名の通り、自分でデジタルデータのマリモを飼育することができます。marimoはゆっくり成長し、1年で数センチは大きくなります。とりたてて大きな反応はないし、ものすごくカワイイわけでもなく、よく考えればたんなるデータでしかないものに対して、人は愛着を持っていられるのかという実験でもあります。

marimo

  marimoのような対象に愛着が湧くのなら、NFTの所有感はわりと「本物」ではないかと考えられます。実際、時間をかけて育てられたmarimoは、あまり転売されない傾向にありますし、お金に換えられない価値がそこに生じていると感じますね。

 いっぽうで、slothのほうは、一言で言えば「コラボ型きせかえNFT」。もととなるキャラクターはいるのですが、そこにいろんなパーツを着脱できるようになっている。こちらのほうがNFTの入門編としてはわかりやすいかもしれません。各方面とのコラボレーションも積極的に行っており、無数のバリエーションが生まれています。

 これらのサービスにふれてもらうと、キャラクターがただデジタルになったというだけではない、NFTならではの新しい楽しみ方を体験しやすいかと思います。

slothのサービス図解

──NFTのひとつの特徴に二次流通の活発さがありますが、「marimo」や「sloth」はそこをターゲットにはしていないのですね。

 もちろん二次流通もできますが、そのマーケットを狙ってはいません。それよりもNFTというシステム上に、自分のキャラクターというかペットを持つような感覚を楽しんでもらいたい。犬や猫を飼い始めるときに「うまく調教したら後々高く売れるから」と考える人はたぶん少数派なのと同じです。

──けんすうさんはNFTをビジネスチャンスととらえているというより、NFTでできる表現の可能性を探っているように見えます。

 そうですね、いまNFTを盛んに手がけている人の動機には、大きく分けて3つのパターンがあると思われます。ひとつはビジネス展開。まずは事業としてきっちり利益を出すことに注力している人がいる。次に、NFTという新しいテクノロジーで何ができるかを、面白がって探求している人たち。僕はここですね。

 もうひとつは、NFTゲームをプレイして楽しんだり稼いだりする方々です。僕はIT企業を経営しているので、事業展開をきちんと考えているのだろうと思われがちですが、どちらかといえば関心事は、NFTでどんなクリエイティブなことができるかというところにあります。 

──日本でのNFTの盛り上がりは、他の国・地域と比べてどうなのですか。

 悪くはないでしょうし、これからもっと盛り上がってくると思います。日本は国・政府としても現在、様々に制度的な後押しをしようという気運がありますね。NFTは、キャラクター・コンテンツ産業を伸ばしていこうという国の経済成長戦略と合致するものとして見なされているわけです。税制も整備が進んでいきそうですし、政策の支えを得ていることは、今後日本のNFTの強みになっていくのではないでしょうか。

 また、仮想通貨の状況次第で、NFT市場が大きく動く予感もあります。近い将来、仮想通貨の価値がグッと上がると、市場に何十兆円単位の含み益が出ることが考えられる。その一部を原資としてNFTが購入されれば、そこでかなり市場が広がる可能性はあります。

──現代アートのファン、コレクター、またアーティスト当人にとって、NFTとはどんな存在になっていくと思われますか。

 日本人アーティストでは村上隆さんがいち早くNFTをアートに取り入れ、きちんと成果を出していますよね。トップランナーがすぐに手がけているくらいですから、もちろん現代アートとNFTの相性は悪くないと考えられます。相互参入の例は、これからもきっと増えていくでしょう。

 最近では、たかくらかずきさんの活動が面白いですね。僕もたかくらさんのNFT作品は、いくつか持っています。もともとデジタルアートに取り組んでいて、NFTにも早い段階から接してきているので、活用の仕方が大変うまい。

たかくらかずきのNFTアートシリーズ「NFT BUDDHA」。マーケットプレイス「OpenSea」での出品画面 ©︎ Kazuki Takakura

 たかくらさんは仏教への深い関心と造詣を、作品のコンセプトとして組み込んでいて、そこもNFTと相性がいい要因になっています。神仏の概念や魂の在り様は、じつはデジタル世界の成り立ちと親和性が高いので。たかくらさんの作品には、「NFTも仏教も似たことやっていますよね」といったメッセージが含まれていると感じられます。

 そうしてNFTを生かした作品づくりを進めるアーティストがいるいっぽうで、NFTなどどこ吹く風というスタンスのアーティストがいたって、もちろんいいに決まっています。だれもが最新のテクノロジーと関わらなければいけないなんてことはありません。自身のアートと相性が良ければやってみるのも面白いかも、という程度の話です。

 19世紀に写真技術が発明されたとき、肖像画や風景画を筆で描いていた画家のなかから、写真に飛びつき表現に活用する人が出てきました。いっぽうで従来のやり方を変えず、脈々と絵を描き続けた人もいた。現在の状況もそれと同じです。最新のテクノロジーに惹かれるところがあれば使ってみればいいし、必要なければただスルーすればいいのです。

──では作品を買う側からするとどうでしょう。NFTアートはいま、買いどきなのかどうか。

 それもアーティストと同じことが言えるでしょうね。惹かれるところがあれば、買ってみるときっと楽しい。従来通りモノとしての作品をコレクションしたいという人は、そうするのがいい。NFTが話題になっているからといって、誰もが飛びつかなければいけないということはありません。

 ただ、購買履歴の正確なデータが残るといったNFTの特性を利用すれば、いろいろ新しいことができそうなのは確かです。例えば、あるアーティストのクローズドのサイトやコミュニティをつくり、そこには作品の所有者だけ、もしくはこれまで所有したことのある人だけ参加できるようにするとか。作品を手放した後も、所有歴が価値を生むとなれば、ちょっと背伸びしてでも一度は作品を買ってみようという気持ちになるかもしれません。うまく使えばNFTは、アートとの関わり方のチャンネルを増やしたり、アーティストとコレクター相互を結ぶコミュニケーションツールになりうるということですね。

編集部