EXHIBITIONS

大﨑のぶゆき「Travel Journal」

大﨑のぶゆき untitled album photo(Travel Journal)4-22  2022
©︎ the Artist Courtesy of Yuka Tsuruno Gallery

 ユカ・ツルノ・ギャラリーは、アーティスト・大﨑のぶゆきの個展「Travel Journal」を開催している。

 大﨑は1975年大阪生まれ、京都市立芸術大学大学院修了。2021年に文化庁新進芸術家海外研修制度により、シュトゥットガルト美術大学に客員研究芸術家として滞在した。17年に大阪市「咲くやこの花賞」を受賞。作品は兵庫県立美術館などに収蔵されている。

 今年3月、シュトゥットガルトでの約1年の滞在を終えて帰国したばかりの大﨑。本展では、コロナ禍による「不確かさ」に直面したドイツ滞在の個人的な経験をモチーフに、現地で制作した新作の映像や平面作品、日本へ郵送した手製のポストカードなどのインスタレーションを発表する。

 大﨑は一貫して「リアリティの不確かさや曖昧さ」への興味から、自己を座標軸に、自身を取り巻く世界をどのように認識しているのか、さらにはその知覚や記憶がイメージとなってどのように存在しているのかなど、不確かさと向き合うことの可能性を探求してきた。流動的な時間や記憶の在り方を表現するために、イメージが時間をかけて融解し、拡散しながら消えてく映像作品など、絵画や映像のメディウムの特性を活かしながら独自の方法で取り組んでいる。

 本展では、これまでの実践を土台に、世界的なパンデミックによる予測できない変化や見通しが立たない日常と、シュトゥットガルトでの研究テーマである「セルフポートレイトを巡る」ことを出発点としている。作家はこれまでの自身の興味や探求に鑑みながらも、「流動的で不確かなこの世界に生きていることを実感する日々」であり、だからこそ「些細な触れ合いや出会い」がより大きな意味を持っていたと滞在を振り返っている。

 作品の中心的なモチーフは、新聞記事やスマートフォンで撮影した現地での出会い、都市風景など、社会状況によって大きく影響を受けながらも、他者との触れ合いによって記憶される個人の経験を映し出した滞在の記録だ。それらのモチーフが時間をかけて変化したり、その過程として表現されていたりするように、日本へと届けられた手製のポストカードには、郵送による時間と物理的な影響が織り込まれている。

 複数の時空間を跨いで紡がれ変化していく作品は、個人の経験にとどまらず、社会に翻弄され心もとない日常のなかの未知でありながらも、身近で非表象的な「不確かさ」を明るみにする。