EXHIBITIONS
今坂庸二朗「Wet-Land」
ニューヨークを拠点に活動する若手アーティスト・今坂庸二朗の日本初個展「Wet-Land」がTHE CLUBで開催される。本展では、19世紀の写真技法を用い、時間をかけて映し出された、淡くモノクロームな大型作品を展示。
今坂は1983年広島生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、2007年に渡米。ニューヨークのプラットインスティテュートでMFAを取得し、現在はブルックリンを拠点としている。これまでにミネアポリス美術館、東京都美術館、パリフォト、Miyako Yoshinagaギャラリーなどでの個展やグループ展で作品を展示。作品は、サンノゼ美術館、ミネアポリス美術館、ミード美術館 / アマースト大学、カーネギー美術館、ニューオリンズ美術館、また複数のプライベートコレクションに収蔵されている。
今坂は、各地の自然に飛び込んで気候や風景の変化を観察し、何日もの時間をかけて唯一無二の一枚を写し出す。暗室のなかで生み出される独自の色彩は、写真の域を超えたユニークな作品となり、鑑賞者をその風景に引き込む。
本展では、19世紀に使用されていた「湿版写真 / コロジオンプロセス(*1)」という技法によって映し出された、淡くモノクロームな大型作品を紹介。なお同シリーズの作品は、ニューオーリンズ美術館による所蔵が決まっている。作家は次のように述べている。
「写真は時間を反映するメディアですが、私はいつも過去や現在だけでなく未来をも想起させるような作品作りをしたいと思っています。今作品は、2021年の春、約6週間アメリカ南部のルイジアナ州、バイユー(*2)と呼ばれる地域で撮影したものです。
湿板写真という撮影方法は、薄さ約1mmのガラスの板に薬品を塗ったものを『フィルム』として大判カメラに入れ、そのガラスにイメージを定着させます。古典的な技法のため、画像は時にぼやけたり、使用する薬品の跡が残ったり、一部が剥がれたりすることがあります。太古の森を思い起こさせるようなバイユーの湿地帯を奥へ奥へと歩きながら撮影を続けていると、この技法によって映し出されるイメージはまるで頭の中の記憶と似ているのではないかと思えてきたのです。⾮常に薄く脆いガラスをフィルムとして使⽤することもまたその記憶の脆弱性を強調する一因となりました。
今⽇、我々の生活には欠かせなくなったデジタル機器には膨⼤な量の情報が記録されています。しかしながら私たち⾃⾝の⼼の中に記憶されているイメージは例えそれがぼんやりとした不完全なイメージであったとしても、とても重要な気がするのです。
これらの作品は決して特別な場所で撮影されたものではなく、むしろ人々が行き交う場所で撮影することもあるため、長時間の露光中にファインダー越しにカメラの前を通り過ぎる人の姿が見えることもあります。しかしコロジオン・プロセスの⻑い露光時間では、彼らがはっきりと画像に現れることはありません。
確かにそこに存在していたはずの彼らが、微かな痕跡としてイメージの中に残ってゆく。それはまるであたかも永遠と続くかのように見える自然と、私たちの存在との対比であり、人間以後の風景という未来像を私に思い起こさせます。それは、私たちよりもずっと前からここにあり、私たちよりもずっと後もここにあるのです(今坂庸二朗)」。
*1──湿版写真 / コロジオンプロセス。コロジオン法は、初期の写真撮影方法である。コロジオン法は、主に「コロジオン湿板法」と同義で、約15分以内に写真材料の塗布、感光、露光、現像を行うため、現場には携帯暗室が必要であった。コロジオンは通常湿式で使用されるが、乾式でも使用可能である。上記の理由から、19世紀のプロの写真家の多くが行っていたポートレート撮影には乾式は不向きであった。そのため、乾式は風景写真や、数分から数十分の露光時間が許容される特殊な用途に限定されていた。
*2──バイユー(/ˈbaɪ.oʊ/ or /ˈbaɪjuː/)はフランス語と英語で、アメリカの平らで低い土地にある水域のことを指し、非常にゆっくりと流れる川や湖、湿地のことである(しばしば海岸線が不明瞭である)。また、潮の満ち引きによって毎日流れが逆転し、魚やプランクトンが生息しやすい汽水域を持つ小川を指すこともある。バイユーはアメリカ南部のメキシコ湾岸地域、特にミシシッピ川のデルタ地帯に多く、ルイジアナ州やテキサス州が有名である。
今坂は1983年広島生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、2007年に渡米。ニューヨークのプラットインスティテュートでMFAを取得し、現在はブルックリンを拠点としている。これまでにミネアポリス美術館、東京都美術館、パリフォト、Miyako Yoshinagaギャラリーなどでの個展やグループ展で作品を展示。作品は、サンノゼ美術館、ミネアポリス美術館、ミード美術館 / アマースト大学、カーネギー美術館、ニューオリンズ美術館、また複数のプライベートコレクションに収蔵されている。
今坂は、各地の自然に飛び込んで気候や風景の変化を観察し、何日もの時間をかけて唯一無二の一枚を写し出す。暗室のなかで生み出される独自の色彩は、写真の域を超えたユニークな作品となり、鑑賞者をその風景に引き込む。
本展では、19世紀に使用されていた「湿版写真 / コロジオンプロセス(*1)」という技法によって映し出された、淡くモノクロームな大型作品を紹介。なお同シリーズの作品は、ニューオーリンズ美術館による所蔵が決まっている。作家は次のように述べている。
「写真は時間を反映するメディアですが、私はいつも過去や現在だけでなく未来をも想起させるような作品作りをしたいと思っています。今作品は、2021年の春、約6週間アメリカ南部のルイジアナ州、バイユー(*2)と呼ばれる地域で撮影したものです。
湿板写真という撮影方法は、薄さ約1mmのガラスの板に薬品を塗ったものを『フィルム』として大判カメラに入れ、そのガラスにイメージを定着させます。古典的な技法のため、画像は時にぼやけたり、使用する薬品の跡が残ったり、一部が剥がれたりすることがあります。太古の森を思い起こさせるようなバイユーの湿地帯を奥へ奥へと歩きながら撮影を続けていると、この技法によって映し出されるイメージはまるで頭の中の記憶と似ているのではないかと思えてきたのです。⾮常に薄く脆いガラスをフィルムとして使⽤することもまたその記憶の脆弱性を強調する一因となりました。
今⽇、我々の生活には欠かせなくなったデジタル機器には膨⼤な量の情報が記録されています。しかしながら私たち⾃⾝の⼼の中に記憶されているイメージは例えそれがぼんやりとした不完全なイメージであったとしても、とても重要な気がするのです。
これらの作品は決して特別な場所で撮影されたものではなく、むしろ人々が行き交う場所で撮影することもあるため、長時間の露光中にファインダー越しにカメラの前を通り過ぎる人の姿が見えることもあります。しかしコロジオン・プロセスの⻑い露光時間では、彼らがはっきりと画像に現れることはありません。
確かにそこに存在していたはずの彼らが、微かな痕跡としてイメージの中に残ってゆく。それはまるであたかも永遠と続くかのように見える自然と、私たちの存在との対比であり、人間以後の風景という未来像を私に思い起こさせます。それは、私たちよりもずっと前からここにあり、私たちよりもずっと後もここにあるのです(今坂庸二朗)」。
*1──湿版写真 / コロジオンプロセス。コロジオン法は、初期の写真撮影方法である。コロジオン法は、主に「コロジオン湿板法」と同義で、約15分以内に写真材料の塗布、感光、露光、現像を行うため、現場には携帯暗室が必要であった。コロジオンは通常湿式で使用されるが、乾式でも使用可能である。上記の理由から、19世紀のプロの写真家の多くが行っていたポートレート撮影には乾式は不向きであった。そのため、乾式は風景写真や、数分から数十分の露光時間が許容される特殊な用途に限定されていた。
*2──バイユー(/ˈbaɪ.oʊ/ or /ˈbaɪjuː/)はフランス語と英語で、アメリカの平らで低い土地にある水域のことを指し、非常にゆっくりと流れる川や湖、湿地のことである(しばしば海岸線が不明瞭である)。また、潮の満ち引きによって毎日流れが逆転し、魚やプランクトンが生息しやすい汽水域を持つ小川を指すこともある。バイユーはアメリカ南部のメキシコ湾岸地域、特にミシシッピ川のデルタ地帯に多く、ルイジアナ州やテキサス州が有名である。