EXHIBITIONS

平川祐樹「a film by」

2021.06.22 - 08.07

平川祐樹 a film by #M.E. 1928  2021

平川祐樹 a film by #E.K. 1929 or G.H. 1930  2021

 平川祐樹は1983年愛知県生まれ。場所や事物に宿る「固有の時間」をテーマに、メディア考古学を応用した映像作品を制作している。近年取り組んでいる、失われた映画を扱った「Lost Films」シリーズは国内外で高く評価され、2019年にはロッテルダム国際映画祭(オランダ)、オーバーハウゼン国際短編映画祭(ドイツ)、ショートウェーブス映像祭(ポーランド)など数々の映画祭にて招待上映されている。

 本展では、この「Lost Films」のテーマを継承しながらも、まったく新たな展開を見せる「a film by」シリーズより最新3作を発表する。

 今回の作品にある「a film by」とは、映画の冒頭やエンディングで監督名を表示する際によく使われる文章。「Lost Films」の制作過程で平川が興味を持ったのは、多くの戦前映画のフィルムが行方不明あるいは消失しているにも関わらず、映画のスチル写真は未だに多数存在しているという事実だった。かつてひとつの物語をかたちづくっていた映画が、スチル写真という断片としてのみ現存し、その断片化した情報からわずかながら物語の痕跡を読み解くことができる。

 平川は「a film by」の制作にあたり、行方不明となっている戦前日本映画のスチル写真を探し集め、そこに写っていた空間や小道具をスタジオに再現・撮影。スチル写真の多くは元の映画を特定することが難しく、役者の組み合わせや製作会社などのわずかな情報から映画の特定と再現を進めた。それはまるで考古学者が遺跡を発掘し、かつてそこにあった建物を思い描くようなプロセスだったと言う。再現された薄暗い空間のなかには、小道具の他に石膏でつくられた手や耳など、人物の断片が配置されており、それらをカメラでゆっくりと横移動しながら撮影された。平川は、すでにこの世に存在しない役者たちを再現する方法として石膏を用い、いわば「抜け殻」としての身体を表現した。

 部分のみ石膏で再現された身体は、ある種の匿名性を帯び、再現された複数の映画のなかに共通項として現れてくる。また、身体の一部のみが再現され、全体が消失しているという状況は、作品構造自体のメタファーとしてとらえることもできる。再現された映像は、行方不明の映画の1カットにも満たないものだが、それらが同時間軸、同空間上に展示されることにより、本来まったく関係のない他の映画のカットとゆるやかにつながり、そしてそこは新たな物語の予兆を感じさせる。こうしてひとりの作家によって再現された物語の断片は、一遍の大きな物語として構成されている。

 今作「a film by」は、戦前日本映画の再現を出発点としながらも、たんなるリメイク映画にとどまることなく、いずれ死にゆく私たち人間という存在、決して逆らうことのできない時間、それでもなお瞬間を記録しとどめようとする人々の行為、そんな芸術全般に対する問いかけをも内包している。