稲垣美侑「ぐぜり」

　ペインター・稲垣美侑の個展「ぐぜり」がCLEAR GALLERY TOKYOで開催されている。4月10日まで。

　稲垣は神奈川県出身。2017年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画修了。21年に同大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻油画博士号を取得し、現在は茨城と神奈川を拠点に制作を行っている。
　
　稲垣は、ある土地の風土や人、建造物を考察し、自らその場所を訪れ目にした情景やその土地と自身との関係性を、油彩画やインスタレーションで表現。また稲垣の絵画において色の存在は、作家と異なる空間とを媒介する役割を担っている。
　
　場所それぞれに記憶されている人間の営みと生のエネルギー、音や匂い、質感のイメージを咀嚼し、地層のように重ねられる色彩は、作家によって抽出された風景のかけらであり、描くという行為はその場所にに触れ、そこに作家自身が存在している（た）という確認でもある。

　今作では、稲垣の自宅近隣、作家にとってごくありふれた場所が描かれている。それはたんなる風景の描写ということだけでなく、キャンバスに筆を重ね、実態として立ち上がった作家の足元に広がる外界であり、作家自身の所在の証明であるのと同時に、まだ見ぬ風景への憧憬でもある。