ヒシャム・アキラ・バルーチャ 個展「Wrong Now, Right Now」

　 SNOW Contemporaryでは、ヒシャム・アキラ・バルーチャの個展「Wrong Now, Right Now」を開催する。

　日本人の母とビルマ人の父を持ち、ニューヨークを拠点に活動するバルーチャは、音楽やビジュアルアート、デザイン、ファッション、写真など、様々なフィールドにおいて第一線で活躍してきた。その作品は、インスタレーションからペインティング、コラージュ、写真と多岐にわたる。

　緻密にコントロールされた色彩の重なりと、線と面がつくり出すスペースによって構成されるパターンを背景に、無意識のイメージや過去の体験、夢と現実が混在する独特の世界観は、幼い頃から家族とともに東京、トロント、ロサンゼルス、サンディエゴと、様々な街を移り住んできた作家自身のマルチカルチュラルな記憶や、音楽や写真、ウォールペインティングなど身体性を伴う様々な分野で活動している経験から培われたことを感じさせる。

　本展では、デジタルプリントでコラージュされたキャンバスにペインティングを施した重層的な作品群を中心に発表する。

　新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻など、世界的な混乱状況が続く近年、多様な情報が錯綜するニューヨークに住むバルーチャにとっても、改めてメディアの強さを認識すると同時に、現実に起こっている出来事を把握するため、膨大な情報の確認を強いられる日々だった。

　ピクセル状の格子模様が施された新作群は、インターネットから情報収集しようとダウンロードする際に、度々、バグが生じてイメージが崩れたり重なったりする状態を想起させる。バルーチャは今作において、自身の体験と情報がうまくつながらない違和感、それによってもたらされる心理状態を意識したと言う。

　本当の現実とはどのようなものであるのか、情報をどのようにとらえることで現在の違和感を解消できるのかなど、急激に進んだ情報化社会に対する真摯な問いを込めたバルーチャの新たな作品群に注目したい。