vol.78 No.1111
2026年10月号 特集「台湾の現代美術」
「共に生きるための表現」とは?
近年、台湾の現代美術は、東アジアのなかでもとりわけ活気のある文化の交差点として、見逃せない存在感を放っている。そもそも台湾には、原住民族の文化、西洋諸国や中国大陸からの影響、そして1895年から50年間に及ぶ日本統治など、多様な文化や政権が交錯してきた多層的な歴史がある。戦後の戒厳令下における白色テロといった過酷な時代を経ながらも、人々は1980年代末以降の民主化をはじめ、2014年のひまわり学生運動、2019年のアジア初となる同性婚法制化に至るまで、絶えず自らを更新し、自律した民主社会と多文化共存を勝ち取ってきた。
こうした社会の動きを背景にアーティストたちは、様々なメディアも駆使しながら、ポストコロニアリズムや地政学的な課題、多様なエスニシティやアイデンティティなど、幅広いテーマを探究。そして、各地で新たな美術館や芸術祭が生まれるなど活況を呈している。
本特集では、専門家による座談会をはじめ、現在の台湾のアクチュアリティを体現するアーティストやシーンを牽引するキーパーソンへのインタビュー、台湾美術の歴史を紐解く記事、地域ごとの特徴、気鋭の研究者やキュレーターによるコラムやエッセイなどを掲載。複雑な歴史や地政学的な課題と向き合いながら、自らの手で新たな場と表現をひらき続ける、台湾の現代美術が歩んできた歴史と現在を多角的に照射したい。
また、かつての植民地支配が台湾の社会や美術にどのような影響を与え、台湾の人々がいまなおその記憶や「脱植民地化」とどう向き合っているのか。そうした日本との関係において台湾を語る視点も取り入れた。この特集を通じて、台湾の美術に出会い、真摯に向き合うことで私たち自身が変わり、そのことで日台の関係の新たなかたちが紡がれていくことを目指しています。
アーティスト・インタビューは、第12回ヒロシマ賞を受賞したメル・ チン。日本で初めてとなる個展を広島で開催するのにあわせて、新作を含む本展に向けた思いや制作を推し進める力について、美術史研究者の中村公彦が話を聞いた。
