ART WIKI

サイボーグ・フェミニズム

Cyborg Feminism

 ダナ・ハラウェイが1985年に発表した論文。ハラウェイは、ポストモダンにおいてファクトでありフィクションでもある「女性の体験」を浮かび上がらせ、抑圧や可能性に関する解釈と想像力のために、「サイボーグ」という「架空にして現実」のイメージを引用。20世紀後半の女性の意識を変容させるという考えのもと、これを提唱した。「サイボーグ宣言:1980年代の科学、テクノロジー、社会主義フェミニズム」は、ポピュラーカルチュアのサイバーパンクと重なって受け取られもしたが、むしろ「フェミニズム、社会主義、唯物論」をもって「アイロニカルな政治神話を構築する」のがハラウェイの目論みであり、先行していたラジカルなフェミニズムの流れも汲んでいる。ハラウェイは、実験生物学と科学史を学び、ポストヒューマニズム、新唯物論などでも先駆的な位置を占めている。

 サイボーグは西洋思想史にも先例がなく、家父長的で資本主義的な制約を免れる存在である。ハラウェイは、ジェンダー差によって生来的にある被抑圧を超える発想を、サイボーグという概念で示したのだが、その考えは機械技術に限定したものではなく、生物学や環境などの広い観点でフェミニズムのあり方に論及して支持を集めている。サイボーグ宣言以前の生体論や、以後の霊長類学などへのアプローチに見られるように、ハラウェイの思想体系は広範な知識によって成立している。その後の著作も含めて、このサイボーグフェミニズム論はハラウェイの思考をとりわけ際立たせたものである。

文=沖啓介

参考文献
ダナ・ハラウェイ『猿と女とサイボーグ—自然の再発明』(青土社、2000/2017)
ダナ・ハラウェイほか『サイボーグ・フェミニズム』(水声社、1991/2001)