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ハプニング

Happening

「ハプニング」は、アラン・カプローが始めた表現形式である。しかしカプローだけにとどまらず、世界の多くのアーティストたちがそれぞれ独自な解釈で取り入れている。

 1958年に出版された「ジャクソン・ポロックの遺産(Legacy of Jackson Pollock)」と題する文中では、カプローは、ポロックが言う「描く行為(the Act of Painting)」では、その絵画のスケールは「環境」へ、その鑑賞者は「参加者」へ、描くことは儀式的なパフォーマンスへとなり、起こっている(ハプニングしている)ポロックの絵画制作行為に従来の絵画制作とは際立つ違いを見出している。また52年にブラック・マウンテン・カレッジで作曲家ジョン・ケージがマース・カニンガムやロバート・ラウシェンバーグらと行ったステージ作品「シアター・ピース 第1番」は別名で「ブラック・マウンテン・ハプニング」と題されていて、のちにカプローはこれを「最初のハプニング」と紹介している。カプローは57〜59年にかけてニュースクールでケージのもとで作曲を学び大きな影響を受けている。

 初期のカプローは、アクション・ペインティング、アッサンブラージュなどの平面、立体作品を制作していた。それらから一線を画した、まったく新しい表現形態を追求して、行為に重きを置くようになり、「生じる」「起こる(happen)」ものとして、従来の演劇やパフォーマンスとは区別される行為による表現を「ハプニング」と呼ぶようになった。カプローは59年にニューヨークのルーベン画廊で「6つの部分からなる18のバプニング」という題のパフォーマンスを行っている。

 カプロー以外の多くのアーティストたちも「ハプニング」に取り組んでいる。画廊やその他で、光、音、スライド投影などを用い、インスタレーションと組み合わしたものが多い。また屋内外や自然などの「環境」でも行われ、自発的な観客参加も促されるのがつねであったが、無観客でも実施するなど、多種多様な傾向が見られる。また「ハプニング」はその後のパフォーマンス、インスタレーション、インストラクションを用いた表現にも、思想的、手法的に大きな影響を残している。

 60年代に急速に影響拡大したハプニングは、世界各地に広がっていった。ポップ・アート作品で知られるクレス・オルデンバーグも、ハプニングを盛んに行っている。またカプローは、著書『アッサンブラージュ、エンバイロメント、ハプニングス(Assemblage, Environments & Happenings)』(1966)では、日本の具体美術協会のアーティストたちのハプニングを紹介している。

 ハプニングはこのように現代芸術を起源とするものだが、日本ではテレビ番組やマスコミで海外での奇妙な流行や風俗として紹介され、思いがけない出来事や奇抜な事件を「ハプニング」と呼んだことから、本来の芸術的な意味が知られないまま大衆的に広まった。先鋭なアート表現の文脈からかけ離れて日本語に定着した珍しい現象でもある。

文=沖啓介

参考文献
アラン・カプロー『Assmblage, Environments & Happenings』(Harry N. Abrams, Inc.、1966)
アラン・カプロー『Essays on the Blurring of Art and Life』(University of California Press、2003)
アラン・カプロー『Art as Life』(Thames & Hudson、2008)
ロバート・E・ヘイワード『Allan Kaprow and Claes Oldenburg : art, happenings, and cultural politics』(Yale University Press、2017)
アラン・カプロー『6つの部分からなる18のバプニング』の記録(「Allan Kaprow's 18 Happenings in 6 Parts, Reuben Gallery, New York, October 1959」、ニューヨーク近代美術館ウェブサイト)
https://www.moma.org/collection/works/associatedworks/173008?locale=de&page=&direction=
ジョン・ケージ「Theatre Piece(1952、別名「Black Mountain Happening」)」(ジョン・ケージ オフィシャルウェブサイト)
https://johncage.org/pp/John-Cage-Work-Detail.cfm?work_ID=313