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二次創作

Derivative Work

 既存の作品を何らかのかたちで利用し、派生的に新たな作品を創作する表現行為を指す。そこでは先行するマンガ、アニメ、ゲームなどの作品が、個々の二次創作作家に固有の表現様式によって翻案され、同人誌やイラストをはじめとする様々な形態で流通する。この状況が示すように、二次創作文化の隆盛は、原作/原作者の神話的な不可侵性の弱体化や、メディアミックスの常態化と補完的な関係を有している。

 思想家・作家の東浩紀は2001年の著作『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』において、オタク系文化の市場における二次創作のあり方にポストモダン的な態度を見出し、それが従来の「オリジナルとコピー」の対立に代わる、「シミュラークルとデータベース」という新たな二層的対立に規定されていることを指摘した。物語を構成する様々な設定やキャラクターは要素化され、情報の集合としてのデータベースへと登録される。二次創作的な身振りにおいて表現者/ユーザーは、このデータベースから任意の情報を呼び出し、組み合わせることで別の物語や図像をつくり上げる。この二層構造が強力に作用するにつれ、原作も二次創作物もともに(オリジナルでもコピーでもない)シミュラークルと見なされるようになる。また、二次創作物の生産と消費は無秩序に拡散するものではなく、データベースが担う世界観を適切に共有しているか否かが、市場におけるその成否を条件づけている。

 そのいっぽうで、二次創作における先行作品の利用は、著作権(複製権・翻案権・上映権・公衆送信権など)や著作者人格権、著作隣接権といった法律規定をめぐる諸問題と不可分である。とくに近年、「YouTube」「ニコニコ動画」「pixiv」「小説家になろう」などをはじめとするコンテンツ投稿サービスやSNS、「初音ミク」に代表されるボーカロイドの普及を背景として、こうした問題はいっそう遍在化しつつある。現行の法制度とインターネット時代の創作文化との折り合いをつける取り組みの例としては、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)」に代表されるパブリック・ライセンスの整備が挙げられる。

文=勝俣涼

参考文献
東浩紀『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』(講談社、2001)
福井健策、池村聡、杉本誠司、増田雅史『インターネットビジネスの著作権とルール(第2版)』(著作権情報センター、2020)