ART WIKI

メール・アート

Mail Art

「メール・アート(mail art)」の源流は、ネオ・ダダやフルクサスなどの前衛的な美術運動にあり、「郵便アート(postal art)」、「文通アート(correspondence art)」とも呼ばれる。郵送できることを前提に、絵画、コラージュ 、写真、オブジェ、詩、散文など様々な種類の表現がある。現在では、前衛主義から離れて、多様な傾向と形式の、主に手づくりアート作品を、郵便物として送るものである。またコンピュータグラフィクスや動画を電子メールで送り合うEメール・アートもある。

「メール・アート」が出現する以前にも、アーティストが表現に郵便物を使った例がある。例えば、ドイツ出身のダダイストのジョージ・グロスが、第一次世界大戦中にドイツの兵士に風刺的な「仕送り(ケア・パッケージ)」を郵送し、中には「アイロンがけ」された白いシャツなど、まったく実用的ではないオブジェクトを詰めるという反戦活動を行った。また、マルセル・デュシャンは、言語の非効率性を強調するために、知り合いに4枚の無意味なポストカードを送る《Rendezvous of Sunday, February 6, 1916》(1916、フィラデルフィア美術館蔵)という作品を手がけている。

 最初のメール・アーティストと称されるのは、ネオ・ダダ、初期ポップ・アート、フルクサスに参加し、多様な素材を使ったコラージュ作品で知られるレイ・ジョンソンである。ジョンソンは1950年代から郵便を表現として頻繁に使い、生涯にわたって実践していたが、とりわけ63〜73年の10年間に、この活動を「ニューヨーク・コレスポンデンス・スクール」と呼び、名称の綴りは、英語のコレスポンデンス(=correspondence)をフランス語の「correspondance」としていた(万国郵便連合の国際公用語はフランス語と定められている)。ジョンソンの郵便物を使った表現は、43年までさかのぼり、70年にはホイットニー美術館が「レイ・ジョンソン:ニューヨーク・コレスポンデンス・スクール」という展覧会を開催している。

 その他のメール・アートの代表的な作例として、概念芸術で知られる河原温は、68〜79年までのあいだ、友人や美術関係者に毎日、自分が居る世界各所から絵葉書を郵送した。絵葉書を送るのは一貫した行為だが、1日の行動を記す地図と組み合わせたものや、地域をニューヨーク市内に限ったものなどのバリエーションが見られる。

 国内でも、具体美術協会の嶋本昭三やハイレッド・センターの赤瀬川原平らがメール・アートを通じ、国際的なつながりも持った活動を展開した。

文=沖啓介

参考文献
『嶋本昭三-前衛の衝撃-』(軽井沢ニューアート・ミュージアム、2016)
レイ・ジョンソン『Ray Johnson Taoist: Pop Heart School』(Karma、2015)
ドナ・ディ・サルヴォ、キャサリン・グーディス『Ray Johnson: Correspondences』(Flammarion、2000)
河原温『HORIZONTALITY/VERTICALITY』(Verlag De Buchhandlung Walter、2000)