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キキ・スミス

Kiki Smith

 キキ・スミスは1954年ドイツ・ニュルンベルクに生まれ、55年に一家でアメリカに移住。父はミニマリズムの彫刻家トニー・スミス。コネチカット州にあるハートフォード大学のハートフォード・アート・スクールで一時学んだ後、76年にニューヨークに移り住み、アーティスト集団「Collaborative Projects(Colab)」に参加。イースト・ヴィレッジの「The Kitchen」で初個展(1982)を開催する。

 80年に父が亡くなったことを機に、死や腐敗といったテーマに着目。83年に、藻に覆われた人間の片手を模し、濁った水入りの瓶の中に沈めたホルマリン漬け標本のような作品《Hand in Jar》を制作する。身体への興味から短期の医療技術研修を受け、救急救命士の資格を取得。その後、筋肉組織をむき出しにした裸婦像《処女マリア》(1992)や、排泄物を垂れ流してうずくまる、あるいは背中に爪痕を刻まれた人などをかたどった作品を発表。一見グロテスクな彫刻は、エイズの感染拡大や湾岸戦争など当時の状況を背景のひとつに、もろく傷つきやすい人間の姿や、生きることに伴う痛みや苦しみへの理解を表現している。また、しばしばモチーフに使われる子宮や精子、血液などは、生命の循環や再生などの意味が込められている。

 彫刻と並行して版画も手がけ、自身の皮膚を転写した作品などがある。90年代以降は自然、また人と動物の関わりに関心を向け、『赤ずきん』など民話や神話を引用し、人間の純真さと動物の獣性が同居するインスタレーションを展開する。2009年にブルックリン美術館女性芸術賞を受賞。翌年に個展「Kiki Smith: Sojourn」(ブルックリン美術館)を開催。