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美術手帖

Bijutsuteho

 1948年に美術出版社から創刊された美術雑誌。戦後から現代に至るまでの日本の美術批評・ジャーナリズムを牽引しており、現代美術を専門的かつ商業的に扱うほとんど唯一の雑誌である。したがって、商業誌でありながら公共的な役割に対する期待も大きく、それを象徴しているのが1954年から不定期で行われてきている「芸術評論募集」だ(ただし当初は同じ版元より出版されていた『美術批評』誌の取り組みとして始められたが、『美術批評』の休刊とともに『美術手帖』にその企画が移された)。この取り組みからは、戦後を代表する数多くの美術批評家・評論家がデビューしており、2018年7月までに全15回の募集が行われている。また、時代ごとの編集方針の変化も雑誌全体の特徴であると言え、創刊当初はアマチュア向けの指南書的な役割から出発したものが、1960年代には巨匠作家の紹介が中心になり、1970年代にはアングラでコアな読み物としての性格を強めていくなど、その時々の変化がはっきりと読み取れる。

 その理由としては、同誌が商業誌であるために読者の機微を敏感に読み取り続ける必要があったのではないだろうか。そうした傾向の変化として、近年では2015年にアートニュースサイト『bitecho』がオープンし、2017年にはアート・ジャーナリズムとしての役割を強化される形でウェブ版「美術手帖』へと名称が変更となり、徐々に紙からウェブへとその批評的・ジャーナリズム的な役割の移行が進められている。それとともに、展覧会レビューのような同時代批評のあり方にも変化が見え始め、具体的にはテキストの更新速度と更新頻度の強化によって、より同時代的な傾向の強いテキストの供給が増えていくことへの期待も高まっている。

 このように、同誌はそれぞれの時代に応じて媒体のあり方を柔軟に変化させ続けており、それに伴って掲載されるテキストの内容や質にもそれぞれの時代性が色濃く反映されているという点にこそ、雑誌としての大きな特徴が表れている。

文=原田裕規