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イースト・ヴィレッジ

East Village

 ニューヨーク市マンハッタン区ダウンタウンの、地域的には東西にボワリー・ストリートと3番街より東側、南北には14番通りからヒューストン・ストリート付近の地区名。19〜20世紀にかけて、ロシア人、ウクライナ人、ユダヤ人など多くは東欧からの移民が移り住んできた場所である。1960年代になってアーティスト、ミュージシャン、ヒッピー、学生などが住み始めるようになった。安い家賃と50年代から続くビート世代の文化的な雰囲気から、次第にニューヨークのカウンターカルチュアの中心になっていった。セント・マークス・プレイス周辺の書店やカフェに人々が集まり、周囲に散在するクラブは、音楽シーンでも重要な役割を果たす。また、地域の地理的中心にあたるトンプキンス・スクエア・パークなどでは、プロテストや暴動が発生するなどした。

 イースト・ヴィレッジがアートシーンとして注目が集め始めたのは、ここに画廊が急速に増えた80年代である。それまでニューヨークのアートシーンの中心を担っていたソーホーの画廊からイースト・ヴィレッジの画廊へと人々の関心が多様な文化状況を背景にシフトしていったのだが、それは同時に、グラフィティアート、ネオ・ジオ、新表現主義などの開花であり、イースト・ヴィレッジ周辺からミシェル・バスキア、キース・ヘリング、ピーター・ハリーなど多くのアーティストたちが登場した。歌手マドンナも、イースト・ヴィレッジにいたことが初期のキャリアを飾る逸話だった。

 20世紀後半のイースト・ヴィレッジは、美術、音楽、映画、文学、演劇など、多彩な表現が交錯する特殊な引力を持った地域であった。

文=沖啓介

参考文献
『Club 57 N.Y.C.: Film, Performance, and Art in the East Village 1978-1983』(ニューヨーク近代美術館、2017)