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2023.5.29

日本にデザインミュージアムは必要なのか? 経産省主催のカンファレスで議論

国立デザインミュージアムの設立について各所で言及される昨今。実際、日本にデザインミュージアムは必要なのだろうか。その場合、どのような価値創造や懸念点が生じるのだろうか。これらについて考え、意見を交わすカンファレンスが3月17日に東京・六本木の国立新美術館で実施された(本稿は3月18日掲載記事の再編集版です)。

文=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

会場風景より
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 有識者の視点から日本のデザインミュージアムのあり方について考え、意見交換をする「日本のデザインを語るデザインミュージアムの在り方を考えるカンファレンス」が3月17日、東京・六本木の国立新美術館で実施された。本カンファレンスの主催は経済産業省デザイン政策室。

 参加者は、齋藤精一(パノラマティクス主宰)、五十嵐哲也(山梨県産業技術センター主幹研究員、情報工学博士)、植木啓子(大阪中之島美術館 学芸課長)、久保田大輔(特許庁 審査第一部意匠課長)、倉森京子(Design-DESIGN MUSEUM 代表理事)、洪恒夫(株式会社丹青社 エグゼクティブクリエイティブディレクター、東京大学総合研究博物館 特任教授、日本デザイン団体協議会、「ジャパンデザインミュージアム設立研究委員会」委員長)、布垣直昭(トヨタ自動車株式会社 社会貢献推進部長、トヨタ博物館 館長、富士モータースポーツミュージアム 館長)、半田昌之(公益財団法人日本博物館協会 専務理事、ICOM日本委員会 事務局長)、平芳幸浩(京都工芸繊維大学デザイン・建築学系/美術工芸資料館 教授)、宗村泉(凸版印刷株式会社 印刷博物館 副館長)、矢島進二(公益財団法人日本デザイン振興会 常務理事)といった有識者に加え、経済産業省デザイン政策室、文化庁文化経済・国際課、逢坂恵理子(国立新美術館 館長)、三菱総合研究所などの顔ぶれとなった。

 本カンファレンスの前半では、全国に点在するデザイン資源をアーカイヴしミュージアムとしてネットワーキングすることで、「知的利用」「地域活性化」「海外発信」へと活用することができるのではないかという仮説のもと、その資源規模についての調査を報告。齋藤からは現在デザインの分野が抱える課題の共有と、「文化と経済の両立」を実現させるにはどのようなアクションが有効であるか、といった基調講演が行われた。

全国に広がるデザイン資源を有する施設 調査結果(2023年3月15日時点)

なぜ「国立」デザインミュージアムが必要なのか

 そもそも日本にとってなぜデザインミュージアムは必要なのか。それについて齋藤は「新たな国内の文化産業を生み出すためには、これまで育まれてきた日本のデザイン、工芸、産業のあり方やそのプロセスをアーカイヴし、活用できる仕組みをつくる必要がある」という理由を述べるとともに、「時代とともに失われている地域工芸の技術を残すための最終段階にきてしまっている」「『文化が稼げない・発展しない』と言われがちなのは、国の保有する文化を経済のなかで活用できていないからだ」という業界が抱える問題点についても列挙した。

 「国立」である必要性については、「経済活用」や「海外発信」が主な理由だ。文化拠点を中心とした経済地域の形成、そしてそれらをハブとした離れた地域のハブとのネットワーキングの可能性を掲げている。

デザインミュージアム設立のための構造プラン

ディスカッションから浮かび上がる
ビジョンとギャップ

 後半では有識者によるトークセッション「全国各地のデザイン資源と我が国におけるデザインミュージアムの可能性」も行われ、様々な角度からの意見が飛び交った。

 まずはじめにテーマとなった「デザイン業界は各施設が持つデザイン資源をどう活用できるか」という点については、産業活用のほかに「教育現場での利活用」が想像しやすい。実際にデザイン関係者はもちろん、デザインに囲まれて生きているすべての領域や世代の人間に対して、学びある場所にはなりうるだろう。

 しかし、深刻な課題もある。大阪中之島美術館でデザインを専門とする学芸員・植木は、学芸員資格を保有する人間に対して、国内の美術館・博物館における学芸員の募集枠が少なすぎるという問題も含め、「デザイン教育が充実したとしても、(経済での活用が見いだせていない現状があるため)職場での人財の受け皿が少ない現状は改善しなくてはならない」と訴える。

 「デザイン資源のネットワーキングについてメリットはあるか」の論点に対しても「施設における企画展の多様化」「施設間での収蔵品貸借のスムーズ化」などの連携面でメリットが考えられるも、施設や収蔵品ごとに異なる保管方法の統一化が困難であるといった事情もある。膨大なデザイン資源のアーカイヴを「誰が管理していくのか」「予算はどうするのか」という問題もつねにつきまとうことになるだろう。

 ほかにも、ミュージアムが必要である理由についてJDM設立委員会委員長の洪は「キュレーションで様々な伝え方や解釈の仕方が生まれること」「デザインに批評の場が生まれること」を挙げているいっぽうで、齋藤は「資源がネットワークされることについて経済的効果が生み出せないとサステナブルな仕組みにならず、設立自体が進んでいかないだろう」とも別の視点での課題も投げかけた。

 今回のカンファレンスは、国立デザインミュージアムの設立を進めていくにあたってビジョンや様々な視点での課題感を共有する場となった。今後の動きに関しては、今年10月に開催される世界デザイン会議や、25年の大阪・関西万博に向けてマイルストーンを設定し進めていくという。

 「国内初の国立デザインミュージアムの設立」と聞くと耳ざわりは良く、期待感も高まる。いっぽうで、デザインという言葉の定義はやや曖昧で、膨大なアーカイヴとその予算管理は可視化しづらい。そして、現在存在するミュージアムや業界がはらんでいる課題の解決も必要不可欠となってくるだろう。これらをどのように取捨選択しながら進めていくのか。提示されるマイルストーンに沿って追っていく必要がありそうだ。

 2023年5月29日追記:経済産業省のウェブサイトでは、このカンファレンスの議事録と記録映像が公開されている。関心のある方はぜひチェックし、自身の考えを深めてみてほしい。