2019.4.27

右脳派? 左脳派? nendoの展覧会「information or inspiration?」がサントリー美術館で開幕

佐藤オオキ率いるデザインオフィス nendoと美術館の共同企画・展示デザインの展覧会「information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美」が、東京・六本木のサントリー美術館で開幕した。「information」と「inspiration」とのふたつの展示空間を通して、ひとつの作品をふたつの見方で体験する本展の魅力を、レポートでお届けする。

「inspiration」の展示風景
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 世界的に活躍しているデザイナー・佐藤オオキ率いるデザインオフィス・nendoが、東京・六本木のサントリー美術館と共同で企画・展示デザインを手がける展覧会「information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美」が、4月27日より同館でスタートした。

 本展は、同館が所蔵する約3000点の作品から選定した、室町時代〜明治時代初期に制作された22件の日本美術品を「information」と「inspiration」というふたつの展示空間のあいだに配置することで、ひとつの作品をふたつの方法で体験するもの。

展示風景
展示風景

 会場の入り口では、鑑賞者は「information」と「inspiration」というふたつの鑑賞ルートを選ぶことができる。4階から3階まで、ひとつのルートを先に鑑賞したあと、エレベーターで4階の入り口へ戻り、もう片方のルートを鑑賞するのが本展の楽しみ方だ。

「information」の展示風景、本阿弥光悦 書/俵屋宗達 下絵《蓮下絵百人一首和歌巻断簡》(江戸時代前期 17世紀前半)
サントリー美術館蔵

 「information」は、作品の背景にある制作過程や作者の意図・思いなどを知ることで生まれる「左脳的感動」を意味するもの。真っ白な空間がつくられたこのルートには、それぞれの作品の時代背景や技法、作者の意図、関連資料など豊富な文字による説明とnendoによる図解が並ぶ。それは、作品の解説を読みながら、正面から鑑賞する通常の美術館で慣れ親しんだ鑑賞方法だ。

「inspiration」の展示風景

 いっぽう、「inspiration」はただ理由もなく心が揺さぶられる「右脳的感動」を意味するもの。黒い展示空間には、タイトルや作者、制作年代などの情報は一切掲載されていない。そこで、作品の色彩やディテール、構造など「直感的な魅力」が注目されており、作品によっては、一部しか見えない、拡大縮小されている、もしくは増殖・分解されていることが特徴だ。また、出品作品をもとに、nendoが再制作・再構成した作品もここで見ることができる。

 そんななか、いくつかの作品に注目してほしい。まず、江戸時代後期に制作され、真鍮製の把手が付いた棚形の煙草盆《菊蒔絵煙草盆》。

「information」の展示風景より、《菊蒔絵煙草盆》(江戸時代後期 19世紀)
サントリー美術館蔵

 「information」の空間から本作を見ると、天板に火入れが落とし込まれており、内側に煙草の葉を入れる引き出しや、吸い終わった煙草の灰を捨てる灰落としが備えられている様子を観察できる。いっぽう、「inspiration」の空間では、煙草盆の横にライター、灰皿、そして1本のタバコが展示されている。こうした作品の美学や技法に注目しながら、喫煙文化の変遷をユーモア溢れる方法で見せるのは、本展の醍醐味だ。

「inspiration」の展示風景より

 また《薩摩切子 藍色被船形鉢》は、大きく羽を広げた蝙蝠をイメージしたガラスの船形鉢。中国では蝙蝠の「蝠」の音が「福」に通じるので、蝙蝠文様は瑞祥を象徴している。「information」で展示される本作は一般的な鉢だか、「inspiration」の空間では、その鉢に光を当てることで生まれる、蝙蝠のようなかたちをした影のかたちが目を引く。これは、「陰影をデザインする」というコンセプトからなる展示方法だ。

「information」の展示風景より、《薩摩切子 藍色被船形鉢》(江戸時代後期 19世紀中頃)
サントリー美術館蔵
「inspiration」の展示風景より

 なお会場中央の吹き抜け空間では、nendoによるインタラクティブな映像作品《uncovered skies》も展示されている。

 4つのスポットライトに照らされた長さ15メートルの白いステージを持つ本作では、ステージに偏光フィルムを使ってつくられた傘をさして足元を見ると、傘の影の中に日本の「四季」を反映した映像が流れる。 

展示風景より、nendo《uncovered skies》

 本展は、左脳的と右脳的な美意識に優劣をつけることを目的にするものではない。「左右脳」とも言われる差異を認識しながら、そこに浮かび上がった矛盾と魅力を体験してほしい。