EXHIBITIONS

サム・フォールズ展

2024.02.03 - 03.09

サム・フォールズ Drape the dust of this world in droplets of dew 2023 ©︎Sam Falls

 小山登美夫ギャラリーで、日本での初個展となる「サム・フォールズ展」が開催されている。

 サム・フォールズは1984生まれ。アメリカ・バーモント州で育ち、現在はニューヨーク市内およびハドソンバレーを拠点に制作活動を行っている。アメリカのリード大学で物理学、言語学、哲学などを学んだ後、2010年ICPバード芸術研究課程修了した。おもな個展として、「We Are Dust and Shadow」(クリーブランド現代美術館、オハイオ州、2023年)、「Nature Is the New Minimalism」(トレント・ロヴェレート近現代美術館、イタリア、2018年)、アーマンド・ハマー美術館(ロサンゼルス、2018年)などがあり、第21回シドニービエンナーレにも参加。

 フォールズの作品は、ペインティング、写真、陶、ランドアート、ヴィデオインスタレーションと多岐にわたり、それぞれの分野を融合し、異なる要素を共存させる点が大きな特色と言える。ペインティングにおいて、植物を取り除いて現れるイメージは、ろうけつ染や「フォトグラム」のような最初期の写真の露光の手法とも通じている。

 また陶フレームの写真作品の制作では、フォールズはまずインスタントフォトで咲いている花を撮影。その後枯れたその花をつみ取り、それを成形した陶板に並べ押し付け、焼き、灰になった花の跡が陶フレームのなかに埋められることで、生命の儚さと自然のサイクルを多層的に表現している。また写真は現在では生産発売中止となっているFUJIの大判インスタントフィルムを使用することで、人間の絶え間ない消費をも暗喩。

 またフォールズにとって作品とは、アーティスト、自然などの対象物、鑑賞者をつなぐ役割を果たすと考えている。フォールズの手によって草花と染料が配置されたキャンバスは、日が落ちた後に月の光に照らされ、露がつき、時に雨、風もはげしく吹き荒み、また日が昇り光を浴び乾かされる。作品の構成はアーティストによって作り出されますが、色や美しさは天気によって決められるといえる。

 森美術館館長の片岡真実は、虎ノ門ヒルズパブリックアート制作にあたり、フォールズの作品について下記のように述べている。

「都会の真んなかで暮らす人々に、季節感や自然の味わいをどう感じてもらえるか。ガラスや金属やコンクリートなど硬質なものに囲まれた生活のなかに、こうした手の温もりや自然の情景が感じられる作品が必要なのではないかと思っていました」。(「虎ノ門ヒルズ・レジデンシャルタワーが叶えるアートのある暮らし」HILLS LIFE、2022年)

 またフォールズは学生時代から継続して松尾芭蕉の俳句に感銘を受け、作品にも大きな影響を与えており、作品タイトル「Drape the Dust of this World in Droplets of Dew」は芭蕉の句「露とくとく心みに浮世すゝがばや」から、「Spring Snow」は三島由紀夫の小説『春の雪』からの引用だ。本出展作のひとつ「Petrichor(降雨で地面から立ち昇る匂い)」は大きなペインティング作品で、六本木のギャラリースペースを長く横断するような迫力ある展示になる。