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オルタナティヴ・スペース

Alternative Space

 芸術分野で従来使われてきた美術館や劇場などの正式な施設や場所以外の表現空間を意味し、オルタナティヴ・スペースは、展示、舞台、演奏、会議、イベントなど様々な目的で使用されている。施設としては、使われなくなった倉庫、校舎、工場、店舗、事務所、家屋などを利用している場合が多いのも特徴である。また運営では、非営利で、地域に根ざしたものが多い。内容も、実験的なもの、新しいが未発達な表現の促進、社会的なテーマを持ったものなどが中心である。旧来の組織や制度では扱われにくい課題をオルタナティブに(つまりそれらに代わって)取り組んでいる。

 オルタナティヴ・スペースは、アメリカではその多くが1970年代に各地にできている。各スペースで目的は異なるが、アート分野での典型的な初期のケースは以下に見られる。

 フィラデルフィアのペインテッド・ブライド・アート・センター(Painted Bride Art Center)は1969年に地元のアーティストたちによって創設され、展示や舞台芸術を中心に現在でも非営利で運営されている。施設は、古いブライダルショップを利用したもので、名称もそれにちなんでいる。ニューヨークでは、70年に、既成の画廊に属さない若いアーティストたちがソーホー地区に設立した「112 Greene Street」が最初で、71年にヴィデオ・アーティストのウッディ・ヴァスルカらが始めた「The Kitchen」が、72年に女性アーティストたちのみで協同運営する「A.I.R. Gallery」が続き、同じ頃に太平洋岸のサンフランシスコやシアトルでも、オルタナティヴ・スペースが始まっている。

 ヨーロッパでは、60年代〜70年代に始まる、長期的に空いている建物や住宅を占拠して使用するスクワットから始まったオルタナティブなスペースも見られる。スクワット行為が合法である国も多く、独特な文化的な背景が見られる。

 日本では、60〜70年代の現代美術シーンでの貸画廊の一部や、舞台芸術や映像上映の小規模な劇場やスタジオが海外のオルタナティヴ・スペースのような役割も持っていたとも言えるが、字義通りのものは80年代以降になる。

 オルタナティヴ・スペースは以前は大都市部に限られるものだったが、現在は地方にも全国的に数多く拡っていて、加えてテーマも多様化し、地域文化にも欠かせないユニークな存在となっている。従来のオルタナティブなアート・スペースとは異なるが、ファブラボ、ハッカースペース、バイオラボなども、先端技術を用いた創造的なスペースとして世界的に拡大している。

文=沖啓介

参考文献
マッシモ・メニキネッリ『ファブラボのすべて イノベーションが生まれる場所』(田中浩也監修、高崎拓哉訳、ビー・エヌ・エヌ新社、2020)
『アートイニシアティブ リレーする構造』(BankART1929編、BankART1929、2009)