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ミニマリズム

Minimalism

 ミニマリズムは、1950年代後期〜60年代前半に出現し、美術、デザイン、音楽の領域で、非本質的なフォルム、特徴、概念を排して、欠くことのできない本質的なものを表現する傾向である。音楽では、フィリップ・グラス、スティーヴ・ライヒや、振付のイヴォンヌ・レイナーなどが挙げられる。ただしミニマリズムは、どの分野でも、共通して定義されたものではなく、近似の表現傾向と考えられる。

 美術では、「ミニマル・アート」として、表現がはらむメタファーを排したり、抽象性の極限化を通して、シンプルな幾何形体や物質性に注目した表現である。美術運動ではなく、60年代を通して行われた新しい抽象性を巡る論争であったとも言われる。フランク・ステラ、カール・アンドレ、ドナルド・ジャッド、ダン・フレヴィン、ロバート・モリス、ソル・ルウィットなどが代表的な作家である。

 66年にニューヨークのジューイッシュ美術館で開催された「プライマリー・ストラクチャーズ:アメリカとイギリスの若手彫刻家たち」展の作品が、新しいアートとして紹介され注目を浴びたが、「ABCアート」「リダクティブ・アート」「ミニマリズム」「リテラリズム」という様々な名称による批評にもさらされた。同年にグッゲンハイム美術館では、「システマティック・ペインティング」展が開催され、シェイプド・キャンバス、カラーフィールド、ハードエッジなどの絵画が紹介されており、ミニマリズムとの同時代的な関連性を見ることができる。

 ミニマル・アートは、ステラの不規則多角形や分度器型に繰り返される平面分割、金属・ブロック・木材を連続したタイル状に設置したアンドレ、立体表現の自律性と明快な構造を求めたジャッドとそれを言語化した「スペシフィック・オブジェクト」論、モリスのパフォーマンスから発想された立体への展開と独特な彫刻論、フレヴィンの日用品であるが主要作品素材としては異例にユニークな蛍光灯の使用、ルウィットのシステマチックな平面・立体構造や「コンセプチュアル・アート」という言葉の創出など、その後の美術のあり方につながる多面性を持っており、美術史における画期的な分岐点となっている。

文=沖啓介

参考文献
ジェイムズ・マイヤー『Minimalism: art and polemics in the sixties』(New Haven: Yale University Press、2001)
フランシズ・コルピット『Minimal Art: The Critical Perspective』(Ann Arbor: University of Michigan Research Press、1990)