2017.6.17

美術手帖 2017年7月号
「Editor’s note」

6月17日発売の『美術手帖』 2017年7月号は、今年もいよいよシーズン本番を迎える「アートフェスティバル」特集! 編集長・岩渕貞哉による「Editor’s note」をお届けします。

『美術手帖』2017年7月号より

 今号では「アートフェスティバル特集」をお送りします。ここでの「アートフェスティバル」とは、国際展と芸術祭を総称するものとして用いています。

 これまで『美術手帖』では、ヴェネチア・ビエンナーレやドクメンタといった世界を代表する国際展を特集で扱ってきましたが、そこでは欧米アートシーンの最新動向や新たなスター作家の取材など、コンテンポラリー・アートの最前線を日本に紹介するという企画でした。そして、近年ますます開催数が増えている国内での芸術祭は、「アートの旅へ出かけよう」といったアートと観光を結びつける旅ガイドという切り口で特集をしてきました。

 企画の方向性が異なることから、同じ特集で扱うことはなかった海外の国際展と国内の芸術祭を今回、一緒に特集できると思った理由を考えてみたい。ひとつは、今年はヴェネチア、ドクメンタ、ミュンスターという三大国際展が同時に行われる10年に一度の“当たり年”ですが、そこからなにか大きな美術動向を見いだすのはなかなか困難です。ヴェネチアでは、各国や地域の政治・社会状況から導かれたような作品が多く見られました。また、ドイツのカッセルで開かれるドクメンタでは、昨今の揺らぐEUの結束や理念に対する問題意識から、「アテネから学ぶ」というテーマのもと、カッセルに先駆けアテネを会場としてスタートしています。さらに、10年に一度のミュンスター彫刻プロジェクトは、スタート以来、カスパー・クーニヒがディレクターに立ち続け、また市の財政で運営が行われているなど、現在の視点からは日本の芸術祭との共通性が見えてきます。

 国内の芸術祭については、「日本の芸術祭の課題と未来」と題して、美術や地域振興の観点から、新しい評価の基準が求められる局面を迎えた芸術祭の課題について、アーティスト、キュレーター、批評家に答えてもらっています。そこで見えてきたのは、評価をするには目標の設定が必要であり、その目標は芸術祭ごとに異なっていて良いということ。そして、各芸術祭が目指すところが必ずしも明確に設定されていて、それが外部に伝わっているわけではないという現状です。今回の限られた紙幅では議論の端緒を開いたに留まるので、引き続き議論を深めていければと考えています。

 さて、アートフェスティバルに足を運ぶのは無条件に楽しいものです。本特集では、別冊ガイドを含めて、今年開かれるアートフェスティバルごとの特徴や見どころを紹介しています。あなたの関心に適った芸術祭を見つけて、スケジュールや行程を立てるために存分に活用していただければ幸いです。

2017.06
編集長 岩渕貞哉

『美術手帖』2017年7月号「Editor's note」より)