2016.11.24

ついにオープン!
すみだ北斎美術館レポート

江戸時代の人気浮世絵師・葛飾北斎にまつわる美術館「すみだ北斎美術館」が11月22日、東京・両国にオープンした。北斎が生まれた町に誕生した美術館の魅力と、注目の北斎作品をレポート!

すみだ北斎美術館 外観
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くつろげるのに、斬新な空間建築

3階ホワイエの様子

 立地は隅田川の東側、JR両国駅から徒歩約9分の緑町公園敷地内。江戸時代には弘前藩津軽家の大名屋敷があった場所だ。北斎が生まれたのは目前の北斎通りのどこかであると伝わっていたり、北斎が藩主の依頼を受けて屏風を描いたことがあったりなど、北斎が実際に生活していた記録が残るエリアだ。

 館内は地下1階地上4階建てで、大小2つの企画展示室と常設展示室のほか、図書室、講座室、ミュージアムショップなどが併設されている。設計は妹島和世。SANAAとして金沢21世紀美術館や、フランスのルーヴル・ランスなど多くの公共施設を設計してきた妹島が「すみだ北斎美術館」の設計コンセプトとして据えたのは「街に開き、地域住民の方々に親しまれる美術館」「常に新しいチャレンジを試みた北斎の精神を感じることができる美術館」など。たしかに、デザインは新しく挑戦的、にもかかわらず町の風景がシルバーの壁に映り込み、ゆるやかに溶け込んでいくような柔らかい印象の建築に仕上がった。

北斎の名品が揃う、常設展示室

常設展示室の様子。左から「冨嶽三十六景」より《凱風快晴》《神奈川沖浪裏》※会期中展示替あり

 所蔵作品の基盤をなすのは、北斎作品収集家であり研究家のピーター・モースによるコレクション。世界から認められた目利きのモースだが1993年に急逝。コレクションの散財を惜しんだ遺族が墨田区の北斎美術館計画に賛同し、約600点近い作品が収蔵された。

 このモース・コレクションはじめ豊富な所蔵作品を展示する常設展示室では、作品鑑賞だけでなく、デジタル・タッチパネル式情報端末で、作品をクローズアップしたり、当時の北斎の情報が出てきたりと、楽しみながら北斎と浮世絵の理解を深める仕掛けも。さらに北斎の住居をほぼ原寸で再現した展示には、北斎と娘・お栄(応為)の人形も登場するなど、遊び心を感じさせる空間だ。

ゆったりと鑑賞できる企画展示室

企画展示室の様子。真ん中は「冨嶽三十六景」より《山下白雨》 ※会期中展示替あり

 3・4階の2フロアにまたがる企画展示室では、開館記念展「北斎の帰還-幻の絵巻と名品コレクション」展が行われている。常設展示室とは異なる趣きの空間で、作品がゆったりと展示されており、1点1点をじっくりと鑑賞することができる。

 今後は、北斎作品のみならず、北斎を主軸に現代アーティストの展覧会も企画していく予定だ。

開館記念展で初公開の肉筆画絵巻

《隅田川両岸景色図巻》展示風景。手前は吉原の遊郭を描いた部分

 開館記念展で特に注目したいのは海外に流失し、長く行方知れずであった肉筆画の名品《隅田川両岸景色図巻》の全巻公開。46歳の北斎が、戯作者・烏亭焉馬(うていえんば)の依頼によって描いた本作は、ゆったりとした隅田川を主軸に、現在の品川あたりから遊郭があった吉原までの、両岸の名所が描かれている。

 いまなお流れ続ける隅田川。そのそばの美術館で、北斎が描いた隅田川を鑑賞できるという、粋な機会となった。

隙間からは東京スカイツリー

3階ホワイエから眺める東京スカイツリー

 現代の東京の新しい象徴となった東京スカイツリーも眺めることができる、すみだ北斎美術館。北斎が生まれ、生活していたこの地で、北斎の作品と思想に出会える、他では味わえない楽しいスポットだ。森羅万象、この世のものもあの世のものも、すべてを描こうとした北斎を21世紀の視点で見つめてみてはいかがだろうか。