2020.12.21

マーケットでも話題のゲルハルト・リヒター、その作品の魅力とは? リヒターを観るための4つのキーワード

雑誌『美術手帖』の貴重なバックナンバー記事を公開。12月公開分は「巨匠アーティストのことば」をテーマに、世界的に活躍する作家たちの歴代のインタビューや寄稿を一挙に振り返る。本記事では、2005年11月号「ドイツの現代美術」特集より、ゲルハルト・リヒター作品の見方を解説したテキストを掲載する。

文=林寿美+北出智恵子

ワコウ・ワークス・オブ・アート(東京)で2012年に開催された「ゲルハルト・リヒター New Strip Paintings and 8 Glass Panels」展の展示風景 撮影=木奥惠三

 現代ドイツを代表するアーティストのひとり、ゲルハルト・リヒター(1932〜)。1960年代より「フォト・ペインティング」「グレイ・ペインティング」「アブストラクト・ペインティング」といった独自の技法による作品シリーズを展開してきた。ヴェネチア・ビエンナーレやドクメンタにも複数回参加し、97年の第47回ヴェネチア・ビエンナーレ(1997)では金獅子賞を受賞。現在まで世界で活躍を続ける。

 また今年10月、その作品《Abstraktes Bild (649-2) 》(1987)がサザビーズ香港のオークションで約30億円で落札され、アジアにおけるオークションでの欧米作家作品過去最高額を記録したことで、マーケットシーンでも改めて注目が集まった。

 では、絵画表現の可能性を探求し続けるその作品の「見方」とは? 本記事では、リヒターが金沢21世紀美術館と川村記念美術館(現・DIC川村記念美術館)で個展を開催した2005年の「ドイツの現代美術」特集から、2館で展示を担当した林寿美と北出智恵子による解説記事「リヒターを観るためのキーワード」を紹介。その作家性を、4つのキーワードをもとにわかりやすく解説する。

リヒターを観るためのキーワード

 日本でもおなじみのリヒターだが、彼の40年にわたる画業を振り返る展覧会としては、本邦初となる。まとめて観るなら、たっぷりと作品を味わいたい。ここでは、リヒターの人物像、作品の特徴、展示の工夫、鑑賞のポイントなど、もう観た人も、これから観る人も、あらためてリヒターをおさらい!

キーワード1 リヒターってどんな人?

 ゲルハルト・リヒターは、1932年、旧東ドイツのドレスデン生まれ。同地の芸術アカデミーの絵画科で学び優秀な成績を修めますが、戦後の強まる社会主義体制に未来を見いだせず、ベルリンの壁が立てられる直前、29歳の時に西側の芸術都市デュッセルドルフに移住します。ここで再び芸術アカデミーに入学したリヒターは、ジグマー・ポルケやブリンキー・パレルモと知り合い、また美術界を席巻していたポップ・アート、アンフォルメルなどにふれて、大いに刺激を受けます。こうして、ドレスデン時代にすり込まれた社会主義リアリズム絵画の呪縛からようやく解き放たれ、自らの表現を模索し始めたのでした。

 そしてほどなく、新聞や雑誌に掲載された様々な白黒写真を拡大してキャンバスに写す、という方法で絵を描くようになります。これらは「フォト・ペインティング」と呼ばれ、60年代のリヒター作品の代表的なスタイルとなりました。しかし、66年には、あたかも色見本帖のように多数の色の小片を画面に並べた「カラーチャート」を開始。また70年にはグレイ一色で塗り込めた絵画を、80年代には一転して鮮烈な色彩による「アブストラクト・ペインティング」を手がけるなど、一見異なる姿の作品を次々に発表し、さらにはそれらをフォト・ペインティングと同時並行して描き進めたのです。こうした多様性からは、リヒターが、抽象・具象、色彩・無色彩(グレイ)といった表現手段の差異を超え、絵画はいったいどのようなイメージ=図像を表しうるのか、人はそこに何を見るのかを、常に探求し続けていることが読みとれます。近年、鑑賞者自身と周囲の風景がうっすら映り込むガラスを作品に多用しているのも、図像の誕生に対する彼の強い関心の表れといえるでしょう。

 2002〜03年にアメリカで、今年前半には母国ドイツで大規模な回顧展を行い、いずれも高い評価を得たリヒター。大家となった今もなお、ケルン郊外にある閑静な住宅地のアトリエで日々絵を描き、新作を生み出しています。「絵画に何ができるかを試すこと。今日自分はどのように、何を描けるのか。いいかえれば、今何がおこっているのかについて、自分自身のために一つの映像をつくろうとし続けることです」。1977年のこの言葉はいまだ色褪せることなく、リヒター芸術を知る手がかりとなるにちがいありません。〔林〕

キーワード2 絵画と写真:イメージの変容

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