2019.3.31

自身の経験をもとに。小谷元彦が「死」と「自己」について考えたポートレイトを発表

「ファントム(幽体)」をキーワードに、人間の痛覚や異形のものなど幅広いテーマを取り上げるアーティスト・小谷元彦の個展「Tulpa – Here is me」が、東京・天王洲のANOMALYで開催される。会期は4月20日~5月25日。

小谷元彦 左:Tulpa - Starfish girl(部分) 2019 / 右:Tulpa - Honeycomb man(部分) 2019 © Motohiko Odani

 小谷元彦は1972年京都府生まれのアーティスト。東京藝術大学美術学部彫刻科卒業後、同大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了した。

 両手のひらを真っ赤に染めた少女を撮影した代表作《Phantom -Limb》(1997)をはじめ、「ファントム(幽体)」をキーワードに、人間の痛覚や異形のものなど幅広いテーマに取り組んできた小谷。学生時代は彫刻科に在籍していたが、彫刻や立体作品のほかにも、映像、写真、インスタレーション作品なども手がけている。

 2000年以降は、リヨン・ビエンナーレやイスタンブール・ビエンナーレ、光州ビエンナーレなど数多くの国際展に参加。03年の第50回ヴェネチア・ビエンナーレには、曽根裕とともに日本館代表作家として参加するなど、国際的に高い評価を得ている。

 10年には、森美術館(東京)で大規模個展「幽体の知覚」展を開催。同展は、森美術館での会期終了後、静岡県立美術館、高松市美術館、熊本市現代美術館を巡回し、大きな話題となった。その後もスウェーデンで個展を開催するなど、精力的に活動を行っている。

 そんななか、小谷は17年に突然の心筋梗塞に倒れた。小谷にとって、その経験はこれまで自身が主題にしてきた「身体」を省みる大きな機会となったという。97年の初個展「ファントム・リム」は、まさに失われた身体感覚の幻影がテーマであり、以降、現在に至るまで、身体とその感覚の幻影(ファントム)が、小谷作品の根幹を貫くテーマとなっている。 

 そんな小谷の個展「Tulpa – Here is me」が、東京・天王洲のANOMALYで開催される。化身・思念形態を意味するタイトルがつけられた本展で、小谷は彫刻の原点の一つともいえる「人体像」に焦点を当てたセルフポートレイトに挑む。

 本展には、心筋梗塞によって自身の心臓の半分の筋肉が壊死し、「失われた身体と残された身体」の狭間で生きていくこと、そしてそれと同様のテーマで作品を制作し続けることを紐付けながら制作された人体像が並ぶ。一連の作品群はすべて、小谷自身の頭部を他者に重ねたり、動植物と融合させてかたちづくられたもの。いずれも小谷の半壊の心臓音をもとに、像同士の交信や監視の信号としてとらえた音や光を用いて展示される。

 その音や光が描く有機的な五芒星とハニカムの六角形は、古来からの空間の歪みの象徴、生死や変容関係の記号として思いついたと小谷は語る。古代エジプトではヒトデに星を、星に子宮を重ねて死生観を表したように、小谷はこの五芒星に変容の記号を感じ、今回の作品制作を行ったという。