• HOME
  • MAGAZINE
  • INTERVIEW
  • 東京の変化が加速するいまこそ、改めて紐解きたい。浮世絵不朽…
INTERVIEW - 2017.9.29

東京の変化が加速するいまこそ、改めて紐解きたい。浮世絵不朽の名作『広重 名所江戸百景』

浮世絵ファンのみならず、幅広い層に人気のある「名所江戸百景」(目録を含む全120作品)。今秋、太田記念美術館のコレクションをまとめた新刊『広重 名所江戸百景』(日英バイリンガル)が、美術出版社より発売になる。また、銀座蔦屋書店200冊限定(シリアルナンバー入り)の複製原画がセットされた特装版もお目見えし、注目を集めている。太田記念美術館の学芸員で、本書の執筆、監修を担当した日野原健司(主席学芸員)と渡邉晃(主幹学芸員)に、その魅力、楽しみ方について話を聞いた。

『広重 名所江戸百景』より

『広重 名所江戸百景』より

|「名所江戸百景」のすごさは、広重の目にあり

——今回発売になった『広重 名所江戸百景』の版画作品は、1856〜58年に制作されたもの。日本はもちろん、世界中で何冊もの作品集が発行されるほどの人気作品ですが、いま、改めて、この作品が多くの人に愛され続けている理由はなんだと思われますか?

太田記念美術館でのインタビュー風景。右から日野原健司(同美術館主席学芸員)、渡邉晃(同主幹学芸員)

日野原 広重の「名所江戸百景」は、浮世絵の風景画の代表作。葛飾北斎の「富嶽三十六景」と並んで、何年にもわたって多くのファンのいるシリーズになります。

渡邉 広重による風景画では、「東海道五十三次」もおなじみですね。

日野原 浮世絵師のなかでも特に広重は、「カメラマンの目」を持つ絵師だと思います。まるでカメラを使っているかのように自由自在。いまで言うなら、「スマホの目線」と「ドローンの目線」の両方を駆使して、目の前にある風景をとらえている。前者はたとえば、インスタグラムの画像を撮影する感覚で、目の前にあるものをリアルに、生き生きと切り取っている。また後者は、「鳥の目線」と言い換えてもいい。少し離れた場所から俯瞰に見下ろした構図になる。いずれも、ライブ感があり、広重という人間の生の眼差しを感じられる。そんなところが、この作品に息を吹き込み、多くの人々に共感される理由のひとつになっているのではないでしょうか。

——87番の「四谷内藤新宿」は、手前の馬と遠くの人の距離感が、いわば「スマホの目線」。33番の「四ツ木通用水引ふね」は、上から見下ろしたような広がりのある構図で、「ドローンの目線」と言えるかもしれないですね。

作品87番「四谷内藤新宿」
作品33番「四ツ木通用水引ふね」

渡邉 はい、そんな視点で作品を眺める楽しみ方もありますね。

|かつての江戸といまの東京を考え合わせて眺める

——この書籍の巻末には、広重の名所江戸百景が現在の東京のどの場所にあたるかがわかる地図も掲載されています。当時描かれた場所を訪れると、実際、同じような風景を感じられるのでしょうか。

渡邉 面影が残っている場所もありますが、変わってしまっているところが多いですね。

日野原 実際に現在の場所に行ってみるのも楽しみ方のひとつですが、作品の江戸の風景から、いまの東京のあり方を読み取る面白さもあります。たとえば、28番「品川御殿やま」を見てください。ここは、現在の品川駅前なのですが、当時は桜の名所で有名だった場所です。けれども、この絵は手前が崖になっているんですよ。これは、いまのお台場あたりに砲台を設置するための土台をつくるために埋め立てる土が必要で、ここを削って持って行ったからできた崖なんです。現在、お台場には砲台の跡が残っていますが、広重の絵から、当時のそんな社会情勢が読み取れるのは興味深いですね。

——1枚の作品から、様々な情報が読み取れるのですね。ゆっくりと、作品解説と照らしあわせながら、ページをめくっていただきたいです。

作品28番「品川御殿やま」

|120枚の中から、自分のお気に入りを見つける

——お二人の一番気に入って入る作品とその理由を教えてください。

渡邉 そうですね、39番「吾妻橋金龍山遠望」でしょうか。この作品からは、映画のワンシーンを見ているような動きが感じられるんです。船に乗った女性がかなり手前にいて、後ろ姿がほんの少ししか入っていない。そのため船が動いている様子がわかる。桜の花びらがひらひらと舞っていたり、水面にも動きがあったり。遠くの風景もなんとも味わい深い。

作品39番「吾妻橋金龍山遠望」

日野原 私は、91番「猿わか町よるの景」をあげたいですね。空の色に注目してください。通常、夜の空は黒っぽい色味なのですが、この絵の空は夜なのにプルシアンブルー(ベロ藍とも言う)のグラデーションなんですね。というのも、空には満月が浮かんでいる。つまり、満月の日の夜の月明かりを表現しているんです。人の影からもそれは伝わります。建物の室内の明かりの描き方も、とても繊細です。腕のいい摺師と協力しながら、質のいい絵具を使って、色味の調節を重ねて摺り上げた様子が伝わってくる1枚だと思います。

作品91番「猿わか町よるの景」

——浮世絵ならではの、色の鮮やかさや、ニュアンスの面白さを堪能できる、広重らしい作品だと言えそうですね。

日野原 まさにそうです。

——最後に銀座蔦屋書店限定200冊の特装版についてお伺いします。こちらは、原寸に近いサイズで、よりリアルに、迫力ある作品を楽しめる貴重な豪華本になっています。セットになった複製原画は、120枚の作品の中から、好きな作品を1枚選ぶことができます。最新の印刷技術を駆使し、太田記念美術館が所蔵する保存状態の優れた初摺りを、原作と付き合わせての校正を重ね、丁寧に再現したものになっています。

日野原 はい、ほぼ原寸に近いサイズですので、より作品の細かい部分を観察することができると思います。江戸に思いを馳せながら、じっくりと作品を楽しんでいただきたいですね。

『広重 名所江戸百景 HIROSHIGE’S One Hundred Famous Views of Edo』特装版(日英バイリンガル)