メガギャラリー「ペース」のアジア総裁・冷林に聞く、韓国市場のブームやポストコロナの市場動向

韓国の美術市場に対して大きな期待を示しており、日本市場に進出する意向も表明したメガギャラリーのペース。そのアジア戦略や今年の市場動向などについて、同ギャラリーのパートナー兼アジア総裁である冷林(レン・リン)に話を聞いた。

聞き手・文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

冷林 Courtesy of Pace
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 ニューヨーク、ロンドン、ジュネーブ、香港、ソウルなどの都市に拠点を持つメガギャラリー、ペース。今年5月末、同ギャラリーはソウルにあるスペースを約9倍拡張し、韓国の美術市場に対して大きな期待を示している。

 いっぽう、ペースのCEOであるマーク・グリムシャーは今年4月に「Nikkei Asia」に対し、日本での新スペース開設を検討中としており、日本市場に進出する意向を表明した。こうした状況を受け、ペースのパートナー兼アジア総裁を務めており、同ギャラリーの北京(19年に閉鎖)、香港、ソウル拠点の開設を主導した冷林(レン・リン)に、ギャラリーのアジア戦略や今年の市場動向などについてインタビューを行った。

高まり続ける韓国美術市場への期待と日本市場への思い

──レンさんは5月のアート・バーゼル香港の現場に行かれましたね。今年、ペースの実績はいかがでしたか?

 ペースでは20点以上の作品を販売しました。今回はほとんどの方に現地にお越しいただくことができませんでしたが、香港の地元コレクターを中心としたお客様に、ペースの注目アーティストや、新たに取り扱う若手アーティストを紹介することができました。

アート・バーゼル香港2021より、ペースのブースの展示風景 Courtesy of Pace

──今年のバーゼル香港やアートフェア市場、そして作品を購入するコレクター層は、コロナ禍以来何か変化があったのでしょうか?

 コロナ禍以来の一番の違いは、市場の流動性が低くなったことだと思います。かつてはこの時期、アジア中のコレクターが大挙して香港に押し寄せ、毎日のようにパーティーが続き、とても賑やかでした。ただ、今年は来場者数が少なくなった分、ギャラリーと実際に来てくれたお客様との交流の時間は増えています。

──ペースは5月末にソウルのスペースを拡大しましたが、その理由についてお聞かせください。

 ペースは何年も前にソウルにギャラリーを開設しており、ソウルのギャラリーの運営は非常にうまくいっています。とくにコロナ禍においては、ほかのスペースでは業績が低下しているにもかかわらず、ソウルのスペースは活発に動いていました。このような極端な状況下で、ソウルのスペースを拡張することに踏み切ったのです。

 韓国市場は非常に好調であり、その将来にも大きな期待が持てます。これが拡張のもっとも重要な理由ですね。

ソウルにあるペースの新拠点の外観 Courtesy of Pace

──韓国の市場はいま非常に注目されていますよね。ペース・ソウルの拡張に加え、今年4月にドイツのケーニッヒ・ギャラリーがソウルに新しいスペースをオープンし、10月にはタデウス・ロパックもソウルに新しいスペースをオープンします。また、フリーズは来年9月にソウルで新しいアートフェアを開催します。この現象についてどう思われますか?

 韓国市場は以前から活況を呈していると思います。ただ、コロナ禍で、とくに欧米の市場が全体的に落ち込んでいるなかで、韓国市場のブームはより不思議なものに感じられるでしょう。多くのギャラリーが韓国にスペースを設けたいと思うのは、韓国のギャラリービジネスやアートマーケットの今後の発展について、人々が自信と期待を持っているからだと思います。

──中国や日本と比較すると韓国の経済規模は小さいですね。韓国のアートマーケットがこれほど活況を呈している理由は何だと思いますか?