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INSIGHT - 2018.8.20

すべて“個人”のコレクション。世界の最新プライベート・ミュージアム5選

自ら築いた巨万の富で美術作品を購入するビッグ・コレクターたち。彼らは作品を購入するだけでなく、自身のコレクションを披露する美術館をオープンさせるなど、そのスケールも桁違い。そんな世界の「個人」が収集した作品が集う、世界のプライベート・ミュージアムを紹介する。

Garage Museum of Contemporary Art 出典=ウィキメディア・コモンズ

 アンディ・ウォーホル、マーク・ロスコ、ジェフ・クーンズ——美術館のホワイトキューブに整然と並ぶ、名だたるアーティストたちの作品。それらが「国」「州」といった単位のもとで収集、あるいは幾多の寄贈によって成り立っているのではなく、すべて「個人」のコレクションだと知ったとき、私たちはそのスケールに思わず驚きの表情を浮かべるのではないだろうか。

 今回は、そんな「個人」によって収集された作品が展示される世界の大規模なプライベート・ミュージアム(私設美術館)に注目。なかでも2000年以降にオープンした5つの美術館を紹介する。

 

アンディ・ウォーホルから村上隆まで。SNSでも大人気の「The Broad」

The Broad 出典=ウィキメディア・コモンズ

 まず紹介するのは2015年、実業家のエリ&エディス・ブロード夫妻がロサンゼルスに設立したThe Broard(ザ・ブロード)。フランク・ゲーリーの建築で知られる「ウォルト・ディズニー・コンサートホール」の真隣という一等地にあり、約4600平米もの敷地面積を誇るこの美術館のコレクションは約2000点。

 そのラインアップは、アンディ・ウォーホル、ジェフ・クーンズ、シンディ・シャーマン、ロイ・リキテンスタイン、バーバラ・クルーガー、村上隆など戦後〜現代を代表する美術作品。とくに草間彌生の鏡の部屋《Infinity Mirrored Room-The Souls of Millions of Light Years Away》や、ロバート・テリンの《Under the Table》、ジェフ・クーンズの《Balloon Dog(Blue)》といった作品はSNSでも大人気。Instagramで「The Broad」と検索してみれば、作品とともに記念撮影をする多くの人々の姿を見ることができるだろう。入場料無料(要予約)という点も人気の理由のひとつ。

 

Infinity Mirrors Exhibition by @yayoikusamas. Can’t wait for her upcoming book launch by @Davidzwirnerbooks

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コールハースの建築にも注目したい「Garage Museum of Contemporary Art」

Garage Museum of Contemporary Art 出典=ウィキメディア・コモンズ

 1966年生まれの実業家で、プレミアリーグ「チェルシーFC」のオーナーも務めるロマン・アブラモヴィッチと妻のダーシャ・ジュコヴァがモスクワに設立したのは、Garage Museum of Contemporary Art(ガレージ・ミュージアム・オブ・コンテンポラリーアート、通称:The GARAGE)。2008年に誕生したこの美術館名は、ジュコヴァが編集長を務めるアート・カルチャー誌『GARAGE』に由来する。

 コレクションの核となるのは、1950年代から現代までのロシアの現代美術作品やその関連資料。様々な企画展も行われており、2017年には、村上隆の大規模個展「Under the Radiation Falls」も開催された。展示のほかにパフォーマンスや上映、教育普及プログラムに力を入れているのも特徴だ。

 また、2015年に現住所へと移転オープンしたThe GARAGEは、建築家レム・コールハース率いる「OMA」が設計を担当。1960年代の建造物をベースとし、それらを取り壊すことなく生かすかたちデザインされた建築は、ソビエト建築とコールハースの美学が融合したディティールなど、建築ファンにも見どころの多い美術館と言えるだろう。

 

タスマニアの海上に浮かぶ、性と死の美術館「Museum of Old and New Art」

フェリーから眺める「Museum of Old and New Art」 出典=ウィキメディア・コモンズ

 カジノで財を成したプロ・ギャンブラー、デヴィッド・ウォルシュ。オーストラリアで暮らすこの異色の大富豪が2011年、タスマニアに設立したのがMuseum of Old and New Art(ミュージアム・オブ・オールド・アンド・ニューアート、通称:MONA)だ。

 ウォルシュ自ら「大人のための破壊的なディズニーランド」と称するMONAは、ジェームス・タレルの作品をはじめ「性と死」をテーマに収集した1900点以上もの作品が展示されている。その鑑賞方法も一風変わったもので、解説やキャプションがいっさい存在しない展示室で、来場者はヘッドホンとGPS内蔵のデバイスを手がかりに作品を鑑賞。窓のない地下の巨大空間に並べられた古代〜現代の作品が、独自の世界観をかたちづくる。

 また、美術館ではアートと音楽の祭典「MONA FOMA」や「Dark MOFO」を毎年企画。これまでニック・ケイブ、ジョン・ケイル、デヴィッド・バーン、ローリー・アンダーソンらが出演してきたこのフェスティバルに合わせて美術館を訪れるのもおすすめだ。

 

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現代美術からプロパガンダ・アートまで、中国ビリオネアがオープンした「Long Museum」

Long Museumの本館 出典=ウィキメディア・コモンズ

 2015年、クリスティーズのオークションでひとりの中国人男性が1億7040万ドル(日本円で約210億円)もの価格でモディリアーニの絵画を落札したことが話題となった。その落札者こそ、Long Museum(ロング・ミュージアム)を創設した投資家の劉益謙(リュウ・イーチェン)だ。

 2012年、上海にオープンしたLong Museumは、3つのエリアに点在する中国最大規模のプライベート・ミュージアム。劉が妻の王薇(ワン・ウェイ)とともに収集した作品は、中国の伝統美術、文化大革命がテーマのプロパガンダ美術、近代〜現代美術などからなる。

 また、企画展も多数行われ、今年11月には彫刻家、ルイーズ・ブルジョワの大規模個展が中国の美術館では初めて開催される。

 

ダミアン・ハーストが選んだ作品が勢ぞろい、「Newport Street Gallery」

Newport Street Gallery 出典=ウィキメディア・コモンズ

 最後に、番外編としてロンドンのNewport Street Gallery(ニューポート・ストリート・ギャラリー)を紹介する。2015年にオープンしたこのギャラリーの代表はアーティストのダミアン・ハースト。そして、11mの天井高と6の展示スペースを持つこのギャラリーを設計したのは、建築事務所のカルソ・セント・ジョンだ。

 現代美術界の問題児・ハーストが収集してきたコレクションは、フランシス・ベーコン、バンクシー、トレーシー・エミン、リチャード・ハミルトン、ジェフ・クーンズ、パブロ・ピカソ、リチャード・プリンスといった著名なアーティストに加え、今後の活躍が期待される若手アーティストも多数。さらに、標本、剥製、人体解剖模型なども含まれるという。

 ハーストが1980年代より収集してきた約3000ものコレクションを人々と共有したいとの思いからスタートしたこのギャラリーは、アーティストの審美眼が凝縮する注目スポットだ。

 このように、ひとえにプライベート・ミュージアムといってもその傾向や規模は様々。そして、今後も新たな美術館が続々と誕生する予定だ。

 いま話題を呼んでいるのが、実業家のミッチェル・レイルズとその妻で美術史家のエミリー・レイルズが今年10月4日、アメリカ・メリーランド州にオープンする「グレンストーン美術館」。マーク・ロスコやフェリックス・ゴンザレス=トレス、ウィレム・デ・クーニング、河原温など、選りすぐりの作品が入場無料で見られるこの美術館の展示室は4645平米におよび、アメリカ最大の現代美術のプライベート・ミュージアムとなる見込み。

 いっぽう日本では、実業家の前澤友作が千葉県に美術館を建設予定だと報じられ、注目を集めている。

 「個人」を超える規模で作品を収集する世界のビッグコレクター。つぎにプライベート・ミュージアムをオープンするのは誰か? 彼らの動向に、今後も目が離せない。